第154話 一目惚れ

 タニアの指し示す方向へ、的確に移動していく。

 そういや、元々動体視力は悪くはなかったけど、前よりも見やすくなったような気がする?


『マスター。この世界の知力とは、思考能力を上げるだけではなく認識力も高める効果があるんです。ですから、今みたいに、見てすぐ判断する状況で最大限発揮されるかと思います。

 ······目標更に東方向へ移動中。やや右方向に移動してください』


 説明しつつも、忘れずしっかりと仕事をしてくれるタニアは最高の相棒だ。

 あの神様にはムカつくことばかりだけど、タニアを授けてくれた事だけは、感謝したいと思う。

 流石に自分だけの能力では、ミィヤを探し出すのは困難だったであろうからね。


『マスター、見つけました。やはりミィヤで間違いありません!』


「でかしたタニア!

 すぐに助けよう!!」


 見つけた時、ミィヤは既にボロボロの姿だった。

 あの時は夜で気が付かなかったけど、あちこち擦り傷だらけで痛々しい。


 今ミィヤを追いかけているのは、オークではなくこの森に棲む魔物のようだ。

 あれは確かバウンディウルフという、狩人の相棒にもなる狼の変異種だな。


 なんとか逃げ切れそうだけど、わざわざ見過ごす必要も無い。


「タニア、風魔法で蹴散らせ!」


『お任せ下さいマスター。『ウインドカッター』!!』


 ミィヤを追いかけてきている、バウンディウルフ目掛けて突風が巻き起こる。次の瞬間、血しぶきと共にその四肢が空に待った。


「······えっ?」


 突然の出来事に呆然とするミィヤ。

 息を切らしつつ、朦朧としながらもあたりの警戒を怠らないあたり、賢くて強い子だな。


「ミ······キミ大丈夫か?」


 危うく名前を呼びそうになるのを、グッと堪える。なんならすぐにでも抱きしめたいくらいだが、相手にとっては初対面の人族の男だ。

 見知らぬ人にいきなり名前を呼ばれては警戒されてしまう。


 流石にミィヤに嫌われたりしたら、ショックで倒れる自信がありますよ俺は。


「あ······りがとう?

 貴方は誰?

 何故ここにいるの?」


「俺はリューマ。

 訳あって、一人で旅をしている探検家なんだ。

 この森を探索していたら物音がしたから来てみたら、キミが襲われていたから、慌てて狼を退治させてもらったよ」


「貴方があれを?

 さっきのは精霊魔法。普通の人族は使えない」


 こんな極限状態なのに、良くも気がつくものだな。

 チュートリアルの時は、俺の意見に賛成することはあっても真剣に意見を交換することは少なかった。でもそれは、俺を信頼してくれていたからだろう。

 しかし、今は出会ったばかり。まだそんな信頼はないので普通のことなのだけど、逆に新鮮でかつ新しいミィヤの魅力を発見出来て嬉しかった。


「よく知っているね。キミは精霊に詳しいのかい?」


 ミィヤが精霊使いだと知っているがあえて聞く。

 なるべく初対面で不自然にならないように質問を重ねていく。


「ミィヤ。私はミィヤよ。

 うん、私は精霊が見える。

 貴方はどんな精霊に守護されているの?」


「俺の精霊は······、見る方が早いよな?

 タニア、出てこれるか?」


『分かりました、少しお待ちくださいね』


 すると、俺の胸の中心が光り出す。

 そこから、まるで妖精のような姿のタニアが出てきた。

 なるほど、実体がない今のタニア姿はこんな感じなんだな。


「わぁ、綺麗な精霊ね。

 ······え、光の精霊?!」


「よく分かったな。本当にミィヤは精霊に詳しいんだね。

 というか、光の精霊って珍しいのか?」


「うん、光の精霊は精霊の中でも上位の精霊なの。だから、人に仕えることなんて殆どないと聞いていたのだけど・・・・・・まさか、リューマは勇者?」


「勇者には選ばれなかったオッサンだよ。

 その代わり、勇者並に強いんだぜ?」


 わざとふざけた調子でそう言ってみる。

 いつもなら真顔で肯定されてしまうので肩透かしを食らうんだが。


「ふふっ、面白い冗談を言うのね?

 でも、嫌いじゃないわ」


 と無邪気で透き通るような笑顔を向けられた。

 俺はその可愛さのあまり、その瞬間に心臓が跳ねたようなそんな感覚を体験する。

 あー、こりゃ参ったな。


 俺にとっては初めて会うわけじゃない。だけど、断言出来るな。──これは、一目惚れだ。


「ん、どうしたの?

 何か私の顔に付いているか?」


「ああ、すまん。

 あまりに可愛いから、見惚れてたんだ」


「んー、そういう冗談は好きじゃない」


 そう言って、頬を少し膨らましてムスッとするミィヤ。しかしその頬は少し赤らんでいたので、どうやら照れているみたいだな。

 あー、今すぐ抱きしめてしまいたい!

 そんなことする訳にはいかないので、もどかしいな。


「冗談では無かったのだけどね。

 それで、ミィヤはなんでこんな所で魔物に襲われていたんだ?

 一人でこんな所に来たわけじゃないだろう?」

  

 本当は理由も、ミィヤの置かれている状況も知っているだけに少し心が痛むが、彼女から打ち明けて貰わないと助けに行けないからな。


「それは・・・・・・、話すと長くなる。

 少し休める場所で話をしていい?」


「ああ、気が利かなくてすまないな。

 そうだね、安全な場所へ移動してから話をしようか」


 俺とミィヤは、タニアに索敵サーチしてもらい安全な場所を探す。

 幸いなことに、近くに湧き水があり魔物の住処もない場所を見つけた。

 俺はそこに簡易的なキャンプを張り、休憩場所にする。


 持ってきたタオルを水に濡らし、身体を綺麗にしてもらい。タニアの光魔法により、細かい傷も綺麗に治した。


 残念ながら破れた服はどうにも出来なかったが、水で洗ってからタニアの風魔法で乾かして汚れだけは綺麗に落とすことが出来た。

 タニアの話だと、ダンジョンを再構築すれば保存されていたアイテムやらが全て残っているらしいのだが、ここにダンジョンを創るわけにもいかないので、もう少し我慢して貰おう。


  ミィヤが身支度している間に、近くに生えていた木の実や果実を集めおいた。

 もはや懐かしく感じてしまうが、前の時もこれらのおかげで命拾いしたんだっけ。

 初めて二人で食事してときも、これだったと思うと何だか感慨深い。


「お待たせ。

 助けて貰って、こんな世話までしてもらって、感謝しかないわ」


「大したことでは無いさ。

 これを飲んで、少し身体を温めるといい」


 そう言って、沸かしておいた白湯をコップに入れて渡す。

 容器はもちろんタニアに作って貰った、耐熱性のクリスタルガラスで出来たコップだ。


 更に先程採ってきた木の実を火に炙ったものを皿に入れて渡した。

 焚き火にはリンゴ(もどき?)が炙られていて、甘く香ばしい匂いが漂う。

 くぅ~っ、と可愛い音を鳴らして、顔を俯かせて赤くなるミィヤ。


 うん、可愛いです!


「遠慮しないで食べてくれ。

 鑑定で毒がないことは確認済みだし、まずは腹ごしらえしようか」


 そう言って、先に焼きリンゴに齧り付く。

 それを見てホッとしたのか、ミィヤも手に取り小さな口で少し熱そうにしながら齧り付くのを見届けてから、二人で食事をするのだった。


 一息着いたあと、ミィヤはおもむろになぜ自分が魔物に襲われていたのか。

 どうしてあんな姿になって、森を駆けずり回っていたのかを語り始めるのであった。

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