第1話

 歩き続けてもう一時間だろうか。奴隷市場から目的地までさほど遠くない。それでもちっとも到着しないのは、ひとえに俺の足取りが重いからだ。


 理由の一つは、少し後ろを歩いているウエアウルフ、俺がさっき買った奴隷。市場で出会ったときと変わっていない静かなたたずまい。少女のパーツ一つ一つ・・・・・・例えばまぶた、そして尻尾と頭頂部にある耳が微動にしていないと錯覚してしまうほどで生命の脈動すら働いていないのでは、とこわくなるほど。


 かわいい。全てがかわいい。かわいくないところなどない。たまらなく好きでいとおしいと実感した途端に心臓が爆発しそうになって、耐えられずに逸らした。あと数秒チラ見していたら死んでいただろう。今も呼吸すらままならない。痛いほどの胸を押さえるので精一杯だ。


 もう一度、少女をこっそりと振り返る。


「くっ・・・・・・」

 やっぱり好き。そして駄目だ。五秒以上あの子を視界に入れていると、口から心臓が飛び出てしまいそうだ・・・・・・!


「はぁはぁ、くううぅぅぅ・・・・・・!」


 これから俺は、この少女と一緒に暮らし始めるんだ。好きになった少女と一緒に寝起きして一緒に食事をして一緒に買い物をして何気ない会話をして。


 そして。そしてそして。恋人みたいに手をつないで腕を組んで頭をなでて俺もなでられたり、ついでにあのふわふわ尻尾とか耳とか触って毛並みをもふもふしたり。抱きしめたり少女自体を抱きしめたり、それから色々用字いろいろイチャイチャとかイチャイチャとかしちゃったり、なんだったらキッスとかしちゃったり。


 そしていつか結婚して夫婦になって子作りとか――。


 えへへへ、へへへ。


「あの、ご主人様」

「わっぴょい!?」


 未来を妄想しているとき、いきなり呼びかけられたせいで飛び上がりそうなほど驚いてしまう。


「いかがなされましたか?」

「あ、ああ。大丈夫、なんでもない」


 できるだけ平静を装ったつもりだが、うまくできた自信はない。


「そうですか。それはようございました。先程からあえいだり叫んだり気持ち悪く笑われていたり、身もだえしたり震えてたり両腕でご自身を抱くようにして唇をとがらせていたり身をよじっていたので、頭がおかしくなったのかと」


 うん。それは俺でも不安になる。というか俺がもしそんな人と出くわしたら無視してしまう。というか関わりたくない。けど、少女はあえてそんなことはせずに、側にいてくれた。あまつさえ心配してくれた。なんて優しい子なんだ。もう素晴らしい。いとおしい。


「好きだっっっ!」


「は?」

「あ、いや、その~。そう。ス・キ。隙(すき)だらけだ。今の俺は。こんな状態だと、誰に襲われても対処できない。そんな状態である自分を戒めるための言葉なんだ」

「ご主人様は軍人であらせられるのですか? もしくは武芸者ですか?」


 ご主人様。そう呼ばれただけで、またおかしい状態になりかけたが、なんとか感情を和らげる。


「いや違う。けど、常にいついかなるときも最悪の事態を想定して対処できるように。人生とはそういうものだから」

「成程。御立派な心がけですね」


 危なかったが、なんとかごまかせたからほっと一安心。

「いきなり耳元で叫ばれたので、鼓膜が破れてしまうかと驚きました」

「あ、ごめん」


 少女は自分の耳を手で耳を畳むようにしてふさいでいる。そんな大声を出したつもりはなかったけど。


「それで、君は――」

「ルウ、と申します。改めまして、どうかよろしくお願いいたしますご主人様」

 なんと呼べばいいかという迷いをすぐに察してくれたらしい。少女――ルウは名乗ると同時に恭しく一礼する。


「ルウか。良い名前だ」

 名前さえかわいいなぁ。喉が枯れるまでその名を呼び続けていたい。


「もったいないお言葉でございます」

「俺はユーグっていうんだ。よろしく」

「はい」


 改めて互いの自己紹介をし終えて、なんだか照れてしまう。


「なんて呼べばいい?」

「はい?」

「ルウちゃんかルウさんか」


 呼び名、特に敬称というのは必要だろう。特に大切な存在、好きな相手だったらなおさら。いきなり呼び捨ては遠慮がなさすぎるし、逆にちゃんは・・・・・・なれなれしいか。 さんは距離がありすぎるか?


「いっそのこと・・・・・・ルウ様?」

「なにゆえ主であるあなた様が奴隷である私を上であるかのように様付けなさるのですか」

「ある意味俺は奴隷だよ」


 愛に目覚めた、愛の奴隷。そうだ。ついでに俺への呼び名はどうしよう。


「俺への呼び方はユーグさんかユーグ君。もしくは呼び捨てでもなんでも好きに呼んでくれていい」


 できるなら最初は君かさんがいい。それで徐々に変わっていくというのだったら最高。


「最終的には俺はルウぴょん、君はユグたんと呼び合いたい」


 そんな恋人同士がしている特別な呼び方になれれば、いっそのこと今からそう呼び合って慣らしておくのも。


「かしこまりました。ではご主人様で」


 俺の甘酸っぱい希望を、ルウは情け容赦なく遠慮無く切って捨ててしまった。

「いや、ユグたんは――」

「はい、ご主人様で」

「ユーグ君は――」

「はい? なんでしょうかご主人様」

「ああ、うん。それでいいや」

「今後は絶対に、ご主人様と、その一択で呼ばさせていただきたく存じます」


 さらに追い打ちのようにルウはそう付け加える。冷たい印象がして少し悲しい。


「そして、どうか私のことはルウと呼び捨てになさってください。ちゃんとかさんとか、様などという余計な呼び方は必要ありません。私はあなた様の持ち物、奴隷なのですから」


 持ち物。奴隷。そうだ。俺はこの子、ルウを買った。つまり俺の物。ずっと側にいる。これから・・・・・・


「どうしても、とお望みとあらば、この首輪を用いてそうなさってください」

 ルウが自らの首に巻いてあるものに触れる。


 『隷属の首輪』。奴隷であることの証であり、巻かれた者自身では決して外すことのできない特殊な道具。所有者の命じたとおりのことを、意志を無視して強制的に実行させることができる。


 限られた存在しか扱うことのできない異能の力、魔法。その魔法的効果が備わっている魔導具。『隷属の首輪』も魔導具の一種だ。確かにそれを使えば、ルウを操り人形のように命令に従わせられる。俺の好きな呼び方をさせられるし、それ以外のことも実行させられる。唯々諾々と従い、抗おうともしないだろう。ただ、受け入れるだろう。


「どうなさいますか?」

「いや、使わない」


 断固として即答したが、そうですか、とうなずいただけだった。感情が薄いのか、それとも心を開いていない証なのか。どちらにせよ、これから一緒に暮らしてお互いのことを知っていけばいい。あわよくば相思相愛に。ふふふ。


「それで、ご主人様。私私たちは今どちらに向かっているのでしょうか?」

「ああ。俺の家だよ」

「では参りましょう」


 会話が終わったが、ルウはそこから一歩も動こうとはしない。微動だにしない様は、まるで石像。お互い沈黙というのも、気まずい。ややあって、俺が歩きだすのを待っていることを察することができた。


  こんな状態でずっといるのはいやだったから会話をと頭を捻るが、女の子を喜ばせたり盛り上げたりするようなことが、俺にはない。


 今まで異性と連れだって歩くなんてことはもちろん、異性とまともに会話のキャッチボールをしたことさえ皆無に等しい。だからこそ、好きな女の子と一緒に帰っているというシチュエーションなのに、なにもできない自分が情けない。


 そして、ルウは俺の少し後ろを歩いている。近づきもせず、離れもしない。それはそのまま心の距離を表しているようで、悲しい。俺が歩くスピードを落とせば、ルウも同じく遅くなる。俺が止まるとルウも止まる。


「なぁ、ルウ。俺の隣には並ばないのか?」

「私はご主人様の奴隷、持ち物です。ご主人様と同じように、並んで歩くことなど恐れ多くてできません」


 ・・・・・・残念だけど、並んで歩いてカップルや夫婦に間違われるのを嫌がってとか俺が臭いからとか生理的に無理という理由じゃなくて良かった。


「なにゆえに、そのようなことをお尋ねになられるのですか?」

「それは・・・・・・」

「もしかしたら、ご主人様は私に隣に並んで歩いてほしいのでしょうか?」

「んんんんんんっ!?」


 いきなり図星をさされて素っ頓狂な音が出てしまった。


「でしたら、この首輪を用いてくだされば良いかと。もしくは私に自害を命じてください」

「ちょ、ちょっと待て!」


 なんでいきなり自害なんてことにつながる!


「主の意志をくむこともできず、ご主人様の気分を害することになりました。奴隷として、道具としてあるまじき事態です。ゆえに」

「しなくていい! そこまでしなくていいから!」

「かしこまりました」


 慌てている俺とは対照的に、ルウはどこまでもクールだ。さすがに自害なんて想定外すぎる。もっと自分を大切にしろよ。まぁ、そんなストイックで真面目すぎるルウもすてきだけど。


「ルウの年齢はいくつ?」

「十五歳です」

「へぇ。俺とちょっと離れてるな」

「そうですか」


 なんとか絞りだした話題もそく終了。そこから一切無言の無音。静寂。内容を広げることも膨らませられず、ルウはそもそもする会話を続けることに毛ほども興味ないようだし。だが、へこたれてはいけない。


「ルウは、前までどこで何をしてたんだ?」


 われながら、うまいことを聞けた。そこから住んでいた所や家族のこと、いくらでも話題を振り続けることができる。


「ここからはるか南の先にある村で、父と母と姉とともに暮らしておりました」


 家族はどんな人達用字人たちだったか、どんな生活をしていたか。そんな何気ないことを尋ねられると心が躍った。好きな子の過去を知れるというだけでワクワクする。


「しかし、戦争で村は壊滅、両親は殺されて私の姉も、おそらくそのときに命を落としました」 


 大失敗だった。まさかそんな過去があったとは。亡くなった家族のことを尋ねられて喜んで答えられる奴やつなんてこの世にいないだろう。


「そして、あてもなくさまよっている所を奴隷商人に捕らえられたのです」


 ああ、・・・・・・自分を殺してしまいたい。つらいあろう過去を本人から語らせるなんて、なんて愚かで罪深いんだ。しかもさっきより空気が悪くなったし。


「しゅ、趣味はあるのか?」

「特にこれといったことは。敢えて用字あえていえば体術でしょうか」


 意外すぎる。こんなかわいくてすてきなルウに、そんなことができるなんて。


「趣味というよりも日課に近かったですね。父が姉に教えていたので、私もなんとなく、いつの間にか教わるようになりました」

「ほうほう」

「まぁ、そんな父も軍という巨大すぎる国家、軍隊、戦争という力には勝てず殺されてしまいましたが」


 重い! 自ら重い方向へ話の舵をきったじゃないかこの子! せっかくいい流れになりそうだったのに!


「しょせん個人の戦闘能力など、大多数の敵に対しては無力であると父は教えたかったのですね」


 違う。お父さんにそんな意図はなかったよきっと。 


「けど、そうか。ルウも、あの戦争の被害を受けたのか」

「え?」


 何気なしにつぶやいたあと、空気を改善しようとシミュレーションを脳内で開始する。あらゆる事態、会話、流れ、対処法を想定し、最悪の事態を除外して完璧な会話を用意する。


「そういえば、ルウの好きな料理はなんだ?」


 振り返りながら問いかけたが、ルウはいなくなっていた。一瞬まぶたを瞬かせた。ほんの少し離れたところで、ルウが男たちに絡まれていた。


「なぁ、いいじゃねぇか。俺たちこれから二軒目行くとこなんだよぉ~。お酌してくれよぉ~」


「そうそう。お前おまえみたいなやつでも女がいてくれれば場が華やぐんだよ」

「はぁ。しかし私はご主人様の奴隷ですので。ご主人様の許可を得ずに勝手に行動するわけには」


 急いでルウの元へ向かっている途中、耳に入ってきた内容から察するにどうやら酔っ払い達に絡まれているらしい。こういう奴らは下手に関わったらあとが面倒になるから、取敢えずルウを連れて逃げた方がいいだろうな。


「いいからこいっつってんだよ! 奴隷の分際で人間様に刃向かってんじゃねぇ!」


 三人の内の一人が、ルウの肩をつかんで、無理矢理用字無理やり連れて行こうとした。


「てめぇらなにしてくれとんのんじゃあああああああああ!!! ぼけこらかす殺すぞコルアアア!! 」


 触れてしまうだけで砕けてしまうんじゃないかというきゃしゃで小さな体、俺がまだ触れていない好きな子に、俺じゃないやつが触れた。


 魔法を発動して、男たちに向けて放つ。両手に特大の火炎を作りだし、それを力任せに放り投げる。見事直撃して吹き飛んでいった。その後も悲鳴をあげながら地面を転がっている。


「熱つつ! てめぇいきなりなにしやがるんだあ!?」

 服を焼かれた、髪の毛が黒焦げになっているが、どうやら命は無事らしい。ち、くそが。


「黙れこのゴミクズ共がぁ! 自分たちがしたことを後悔するほどの絶望と苦しみを与えてやるわああ!」

「ナンパしただけだってのに、なんでそんなことされないといけねぇってんだ!?」


 男たちは転がっていた木材、石。そして懐からだしたナイフをかまえた。高温の炎が、自然的にはありえない紫色を帯びて、轟々と周囲で燃えさかる。ふわふわと漂っていたもの徐々に伸びて輪郭が丸みを帯びて小さいボール状の形となった。


 それも一つではない。数にして計四つ。そのうちの一つをまず放ちながら操作して、ナイフの刃に直撃させる。


 ナイフの様子をうかがった男があからさまに顔色を変えた。鉄が一瞬で溶けて貫通させるほどの威力におびえているらしい。指先に更に用字さらに四つ、炎のボール、すなわち『炎球』を発動させてナイフに当てていく。 


 まばたきする間も与えないほどの速度で放った『炎球』。それらはすべてナイフの側面に当たり続け、そして最後には折れてしまった。


 剣、斧、矢。次々と形状を変えた炎の武器を創りだし、周囲に待機させて放出する準備をとる。既に恐怖となっているのか、がたがたと震え、一目散に走り去って行った。けど、まだ腹の虫がおさまらない。いくら酔っ払っていても、していいことと駄目なことがある。俺の愛しのルウの初めて(ボディータッチ)を奪いやがって。ここから、あいつらの背中撃ち抜いてくれる・・・・・・!


「ご主人様?」


 攻撃しようとした直前、はっとして振り向いた。


「けがはないか? さっき肩を乱暴につかまれただろう。痛くないか? あざになってないか? 骨は? なにか後遺症は?」


 魔法を消して、ルウに尋ねた。一番大切なのはあんな奴用字やつらじゃなくてルウじゃないか。さっきまでの憤怒がきれいさっぱりなくなって、心配でいろいろ尋ねて続ける。


「まさか喉や首に負担が? あいつら、ずいぶん乱暴なことをしたからな。こうなったらやはりあいつら骨の二、三本ギタギタにへし折って――」

「いえ大丈夫です。問題ありません」


 ほっと安心する。よかった、もしルウになにかあったらあいつらは許さん。なにがなんでも居場所を調べ上げて徹底的に追い詰めてやる。


「それよりも、ご主人様は魔法士でいらっしゃったのですか?」


 魔法士。魔力をその身に宿して魔導具等々を用いずとも魔法を扱える者達の総称。俺が先程使ったのを見て気付いたんだろう。


「ああ、そうだよ」

「そうですか。では、お顔の半分を布で隠していらっしゃるのは傷かなにか理由があるのでしょうか?」


 反射的に、俺は指摘された場所。指でなぞってしまった。ルウの聞いてきたとおり、顔の右半分側、鼻を中心にひたいから頬全体にかけてひどい傷が残ってしまった。昔ある魔法で失敗してしまってできた傷だ。


 実際、昔に俺の傷を見てしまった奴らには、露骨に嫌そうな顔をされたり気味悪がられた。何度かそれで嘔吐したやつもいた。しかし、この傷は俺にとって、戒めにも近い。それにもう一つ隠しておかなければいけない理由もある。


「左様ですか」


 ルウの反応は軽いもので、ずっこけそうになってしまった。どうして傷ができたのか、とかどんな傷になっているのか、とかいろいろ聞かれると覚悟していたから。しかし、そんなストイックなルウもいとおしい。


「それと、最後にもう一つだけ。ご主人様はなにゆえご私と顔を向き合わせてくださらないのでしょうか」

「・・・・・・ど、どうしてそんなことを?」


 あからさまに動揺してしまう。


「出会ってから、ご主人様は私とちゃんと顔を向き合わせて、お話ししてくださりません。何度か顔を背けてしまわれます」


 それこそ言えない。好きだから。ルウがかわいいから。顔を合わせた状態を維持していると恥ずかしくなって熱さで死んでしまいたくなるほどになってしまう。


 好きになった子に、ただ好きだと伝える。正直になる。それがどんなに難しいことか。そういうことはもっとお互いをよく知って関係を深めて仲良くなってデートを重ねてちょっと良い雰囲気でとかちょっと良いお店に行ったときとか・・・・・・シチュエーションや場所が大切じゃないか。


 こんな男たちをボコボコにして魔法で脅して退散させた後に告白していいことじゃない。


「私が奴隷だからですか? 人ではなく、ものだからですか? 薄汚い私の顔など、見ていたくないという意志なのでしょうか?」

「違うっっっ! そうじゃない! そんなことは決してない!」

「ですからいきなり叫ばないでください。鼓膜が痛いです」


 耳を押さえながら若干迷惑そうな顔のルウ。


「すまん・・・・・・」

「はい。ですが、かまいません。先程と同じように、なんらかの事情があってのことなのでしょうし。言えないことなどやはり人にはありますでしょうから」


 それで、ルウからの質問は終わりらしい。なんともいえない曖昧なかんじで、ほとんど答えられていなかったが、それ以上に気まずい空気になってしまって、耐えられない。


「じゃあ、帰ろうか」

「はい。恐縮ですが、ずっと歩き回って立ち止まって休むことも許されず、足が棒のように疲れてしまっています。できるだけ早くしていただけるとありがたいです」


 ちょくちょく非難めいた毒舌は俺への悪意があるからだろうか。それとも包み隠さず正直な性格ということなのだろうか。


「しかし、そうですか。私のご主人様は突然奇声を上げて通行人に暴力を振い出す奇行をお持ちなのですね。それはご病気なのでしょうか。それとも単にそういう性癖なのでしょうか」

「ってなんでそんな解釈しちゃってんだ!」


 ぶつぶつとしたつぶやきだったが、さすがに聞き逃せなかった。ちゃんと弁解できなかったから間違った印象を与えてしまってんじゃねぇか。


「それと、やはりいきなり大声を出される癖がおありのようですので、鼓膜を守るよう心がけないといけませんね」

「俺の声ってそこまで!? 器官を破壊してしまうほど煩くて迷惑か!?」

「しかしそうなると、ご主人様が暴れ出したときは、今後一緒にいる私にその矛先が向けられるのでしょうか。体術の心得があるので耐えられるでしょうが、魔法までとなると」

「おまえは俺がどんだけ危ないやつだと認識してしまったんだ!」


 まずい。早い内に誤解をなんとかしないと。ルウにとって俺の評価が、人物像が、最悪なことになってしまう。なんとかしなければ。今後に影響してしまうぞ・・・・・・!

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