第52話 儀式の始まり
咲薇は指定された場所に着いていた。
人通りから少し外れた所にもうだいぶ前から使われていない廃工場がある。周りは林に囲まれていて住宅などもなく、今は暴走侍の集合場所になってしまっている。
そして皮肉にも去年叶泰がケジメを取られ、次の日死んでいるのが発見された場所でもあった。それらが分かっているので地元の人間が自ら近づくことはまずない。
咲薇は門の所に単車を停めると中の方へ歩いていった。進んでいくと椿原萼が暴走侍のメンバーと共に待っていた。全メンバーではないがそれでも50人近くはいるようだ。たかだか1人ケジメを取る為にここまで集めるとは。
『遅いやんか咲薇。待ちくたびれてもうたよ。ビビって逃げたかと思てたとこや』
『誰が逃げんねん』
お前らごとき、という態度の咲薇に萼は目を細めた。
『覚悟はできとんのやろな。思い残すことはないな?』
咲薇は答えない代わりに萼をにらみつけた。だがそれを見て萼はニヤリとした。
『さぁ、儀式の時間や』
暴走侍の女たちは咲薇を囲み数人で体を抑えると、ひもで後ろ手に縛り上げた。
『何すんねん!』
『知っとるか?叶泰もそうやってされたらしいで。手を後ろで縛ってガードができんようにや』
咲薇は怒りと悔しさで涙が出そうになった。
(なんて、むごいことを…)
『やれや』
悲しむ間も与えられることなくケジメという名の暴行が始まってしまった。咲薇を輪になって囲み数人で一気にかかってくる。
『うっ!』
顔、腹、背中を同じタイミングで多方向から殴られるが、その瞬間全ヶ所に力を入れたり神経を集中することはできず、手が使えないのでかなり無防備な状態で殴られることになる。防ぐこともできないまま咲薇は暴行を受け続けた。
休む間などなく代わる代わる連続で殴られる中で、少し気を抜いてしまった時に腹におもいきりパンチをくらうのがとても痛かった。
『う…うぅ…』
咲薇が苦しそうにすると女たちはおもしろがって笑いながら何度もそれを繰り返した。
(…一方的にやられるって、こんなに、こんなに痛かったんやな。叶泰、あんた怖なかったんか?)
するとずっとその様子を見ているだけだった萼が近づいてきた。
『痛そうやなぁ。苦しいか?咲薇、チャンスやるわ。あたしの靴の裏舐めや。そしたらもうこれで勘弁してやるわ』
ひざを着く咲薇の前に立つと、足を顔に向けて差し出した。
(はは…靴舐めろやて?…ジョーダンや…ないぞ…)
咲薇がまだうんともすんとも言わない内に萼は1度足を戻すと、勢いよく咲薇の顔面に蹴りを入れた。
『残念。時間切れや』
咲薇は受け身も取れずに転がると、自分で立つこともできず髪を引っぱられて強引に立たされ、また当分の間暴行を受け続けた。
(アカンアカン、死ぬわ…こいつら、いつまで殴りよんねん…もうえぇんちゃうの?…)
終わりの見えない集団リンチにもはや咲薇はされるがままだった。我よ我よと腹にパンチを次々に叩きこみ、殴る為に咲薇を取り合っている。
人間とは不思議なものだ。時になんの理由もなく恨みもない相手にも、自分を守る為に残酷になれてしまう。
きっとどこぞの国々で行われる戦争行為でさえ、大半の人が自分の意思と関係もなく戦わされたり、人の命に手をかけているのではないだろうか。
自分や自分の立場を守る為だけに。
『うぅ…ぅぅ…』
咲薇は苦しそうにうめき声を漏らしながらもがき、涙を流した。
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