第30話 クリスマスと誕生日『今夜、俺は実川さんに……』
目覚まし時計の音で目を覚ます。
まだ外は少し暗くて
俺はぐーんと体を伸ばしてからベランダにある椅子に座った。
外は凍るように寒く、息を吐くと白い気体が見えて冬を感じさせられる。
今日はついに実川さんの誕生日。昨日、真弥さんとショッピングモールに行ってプレゼントにするブレスレット買ったのだけど。
どうやって渡そう……。
ガラガラガラッ……
「おはよぉ、
「なんでだろうねー。おはよう実川さん」
俺は雑に誤魔化して話題を変えた。これもサプライズのためなので仕方がない。
「そーいえば今日はイルミネーション見に行く日だね! 楽しみだなぁー」
「そうだね。そういえば横浜の何処で見れるイルミネーションなの?」
「えっとねー。ネットには横浜駅東口からさくら通りまで見れるって書いてあった気がする」
「あぁ、あのみなとみらいエリアにある全長1,5キロとかいうやつね」
少し説明構文になってしまって申し訳ないのだが、それは冬に行われる横浜最大級のイルミネーションイベント。
自身も幼い時に家族と何度か見に行っていた気がする。
「そそ! 私ね、ここのイルミネーション見るの初めてなんだー。イルミネーション自体あんまり見たことないんだけどね……」
「じゃあ今日はしっかり見れるね」
「うん!!」
実川さんの機嫌は上々。よっぽど楽しみなのだろう。
それにしてもイルミネーションもまともに見たことがないなんて、お金持ちのお嬢様って本当に自由が効かないものなんだなぁ……。
俺なら耐えられない。いや、耐えられる人なんていないだろう。
だが決して実川さんに同情しているわけではない。
ただ俺は無邪気でいつも明るく俺に接してくれる実川さんにこの生活が楽しいと思っていてもらいたい。もっともっと俺が知る場所や人、物を知ってもらいたい。ただそれだけのことしか願っていなのだ。
「ねえ、実川さん。今日行きたいところがあるんだけど」
「ん? 真弥と? この間言ってたやつだよね。いいよ」
「いや、違うんだけど。実川さんと行きたい場所があるんだ」
◆
時刻は六時前。
予定よりも少し早く出発し、実川さんと一緒に来たかった場所に着いた。
「ここは?」
「横浜ランドマークタワーっていって、この階のスカイガーデンなら横浜の町を一望できるんだ」
エレベーターから出ると、そこにはガラス張りで外の景色が眺められる広い空間があった。実川さんは目を輝かせて窓の方に走って行く。
「綾瀬くんっ! こっちきて! 車があんなに小さいよ」
俺は急ぎ足で実川さんのほうへと向かう。
今日はいつも以上に実川さんの笑顔が見れて大満足。ここならイルミネーションが見れるエリアからも近いようなので時間にも全然間に合うだろうし最高。
長椅子に座る実川さんの横に俺も座る。
いつも一緒暮らしているはずなのに少し緊張している俺は、ポケットに入っている箱が落ちないように支える。
「綾瀬くん。今日ってなんの日か覚えてる?……」
実川さんからの突然の質問に言葉が詰まった。
まだ言えない。イルミネーションの時間までは答えられない。
「へっ? イルミネーションだよね」
「あ、うん。……そう、だよね」
表情が少し曇る実川さん。
それを見てしまった俺は罪悪感を感じて、今にでも言ってしまいそうになる。
だがグッと堪えて辛抱した。
――ランドマークタワーを出ると外はすっかり暗くなっていて目的地の方へと歩く二人。
「あ! 綾瀬くん。あそこもう光ってるよ!」
「ほんとだ! まだ六時半過ぎなのに」
みなとみらいの街を綺麗な光で包み込むイルミネーション。
季節が過ぎた枯れた木にもポツポツ青い光が灯され幻想的な風景が目の前に広がる。
そんな景色に違和感なくマッチしている実川さんは写真で撮りたいくらいに美しく可愛かった。
人も少しずつ増え始めるが大半がイチャつき中カップルか家族連れ。
実川さんと出会っていなかったらここには多分来ることはなかったと思う。
「綾瀬くん。人混みが増えてきたね」
「だね。迷子になりそう」
そう言うと実川さんがこっちに寄って来て手を出してきた。
「……はぐれたら良くないし、手繋ごっか」
「え!? なんで?」
「だから! はぐれたら良くないから……」
目線を逸しモゾモゾ喋る実川さんは俺の質問に答えた後すぐに『もぉ』と言って手を握ってきた。
少し恥じらいながら実川さんのペースに合わせ歩く俺は、たまに表情を伺う。
実川さんは恥ずかしそうという感じでもなく、なんだか嬉しそう。
――イルミネーション通りも中間地点に差し掛かり、空いているベンチを見つけたので少しそこで休むことにした。
「イルミネーションってこんなに綺麗なんだね! 来年も来れたらいいな……」
「俺はその時一人だったら来ることもないだろうけどね」
「大丈夫だよ。来年も一緒に見に来るんだから」
俺はこの優しさに何度助けてもらっただろうか。
今日はそんな日頃の感謝もこめてプレゼントを渡す。
「実川さん。はい、これ」
「えっ? なにこの箱」
「開けてみて」
そして箱を開けた瞬間、実川さんが俺に勢いよく飛びついてきた。
何事だ? と周囲の人に見られるので少し恥ずかしい。
「綾瀬くん、ちゃんと覚えててくれたんだ……」
「うん。誕生日おめでとう」
「ありがと」
学校ではクール。でも家では結構デレてくる彼女が可愛すぎてたまらない。
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