第20話  『実川さんに彼氏!?』と水族館デート

 実川みかわさんが朝から珍しくオシャレな格好をして鼻歌を歌っている。

 起きたばかりの俺はあどけない彼女の姿に見惚れて眺めるばかり。


綾瀬あやせくん。私、今日は出かける所があるから戸締まりよろしくね」

「うん、わかった。それにしても、そんなにオシャレして何処行くの?」

「うーん。綾瀬くんには内緒でーす」


 すごく気になる……


 実川さんは俺の方を見てニタっと笑ってからそそくさと玄関を出て行ってしまった。


 一人薄暗い部屋に取り残された俺はやることもないのでスマホを起動して通知を確認する。確認といっても遊矢ゆうやからのメッセージを返すくらいなのですぐに終わってしまう作業。


 遊矢への返信も終わりまた暇になったので俺は写真・動画をSNSで共有する流行りのアプリを開いて実川さんの投稿を覗いてみる。


 これは決して俺が変態だからというものではなくだだの興味本意……。


「んっ!?……」


 3分前に投稿されたストーリーには実川さんとスタイルのいい男性が写っていた。

 男性は高身長でオシャレな服を着ていて俺とは比べ物にならないほどのルックス。

 顔はギリギリ写ってないけどイケメンじゃないとできない服の着こなしなのでハンサムと予想する。


 そして俺の頭に過ぎったのは今まで考えてもみなかった一つの可能性。


「実川さんに彼氏!?」


 思わず大音量の独り言を発する。


 だけど彼氏がいるとして普通、他の男の家に泊まったりしないだろ!?

 まさか、まさかだとは思うが実川さんってビッチなのか!、ビッチなんだな!?


 ベットの上で悶ながら動き回る俺の脳は妄想を加速させる。


 そして恋愛経験ゼロの童貞男子が行き着いた結果は――尾行するしかない!


 ――それから15分後。


 尾行すると言ったものの場所も分からないし今から探しても見つけられない可能性だって十分にある。


 それに今考えると、彼氏でもなんでもない奴が女の子を尾行する=犯罪だということに気づき完全に詰んだことを確信する。


 そういえば俺なんでこんなにも気持ちがモヤモヤしてるんだろ……。

 今日はおとなしく家で留守番しとくかぁ。


 ピロンっ! ピロン


 テーブルに置いてある俺のスマホが音を鳴らす。

 遊矢からの着信だと思い手にとって確認するとそれはクラスメイトの天然Fカップ木村真弥きむらまやからのメッセージだった。


 真弥  『今日、予定空いてる? もしよかったら二人で東池袋の水族館に行きたいんだけど!』


 内容を読んだ俺はデートのお誘いだと悟る。

 最近ものすごく真弥さんが積極的に話しかけてくれたり遊びに誘ってくれたりするので素直にとても嬉しい。


 俺は『了解』とスタンプで返して速攻、服に着替えた。





           ◆





 俺は部屋の鍵をしっかりと閉めたことを確認し待ち合わせした水族館の近くにあるコンビニエンスストアで真弥と合流した。


 今日の真弥さんはゆったりとした長袖のカーディガンを羽織って短いスカート姿。

 髪は短くとも腰のあたりの丸みは明らかに女性のものだとわかる。


 こうして真弥さんとデートに来るのは二回目だけどこの緊張にはまだ慣れない。

 でも彼女とこうしてデートするのは楽しいしこれから慣れていけばいいんだと思う。


「おはよー。春くん前よりも少しオシャレになったね!」

「ありがとう」


 この間真弥さんとデートに行った後、家に帰って実川さんに服を指摘されネット通販で選んでもらったのが昨日届いたので着てみたのだ。

 実川さんマジで感謝である。


 それから俺と真弥さんは他愛もない話しをしながら二人並んで水族館の方へと歩いた。


 料金を支払って中に入ったらまず最初に、一階の少し薄暗い建物に入る。


 青いライトに照らされた大きな水槽に入ったサンゴと魚達が出迎えてくれる幻想的な世界。そこから少し進むとクラゲのトンネルがあって真弥さんが立ち止まってガラスに手をつく。


「クラゲってね、脳や心臓がないらしいよ。どうやって生きてるんだろ……」

「確か、体を動かすことによって全身に栄養をいきわたらせているんだったっけ」

「春くん詳しい!」

「うん。俺、意外とアクアリウムとか好きでたまに一人でくるんだ」

「じゃあ、今日は沢山教えてもらえるやぁー」


 彼女はニコッと笑ってまた前へと歩き出す。

 その姿を見て俺は一瞬ドキッとしてクラゲのいるガラスの方に顔を向けた。


 ――真弥さんと俺は水族館の大体の場所を見て回り最後にイルカショーを見て帰ることになった。


 濡れなさそうな席を選んで座り開始時間まで少し待つ。

 ちょっとずつ人が増え始め気がつくと席は満席。前の方の席の人は透明なレインコートを着て座っている。


「早く座っててよかったね!」

「うん。込んでなくてよかった」


 すると開始の音が鳴ると同時にイルカの軽快なパフォーマンスが始まった。

 二匹のイルカは元気に水槽を泳ぎ高くジャンプして会場を盛り上げてくれる。


 隣では水しぶきを浴びて笑顔で喜ぶ真弥さん。俺もだんだん楽しくなってきて声を出して笑っていた。


 イルカショーが終わって俺と真弥さんは服がビショ濡れ。

 真ん中の席に座っていたのにここまで濡れてしまうとは想定外のことで顔を見合わせて苦笑い。





           ◆





 水族館を出て真弥さんとはそこで別れ、俺はバスでアパートの近くのバス停まで帰った。そこからは自分でアパートまで歩く。


 すると向こうから背の高い男性と見覚えのある女性が歩いて来るのが見えた。

 アパートの前に着くとイケメン男子と実川さんに鉢合わせ、俺は気になっていたことを思い切って実川さんに訊ねた。


「その隣の人は誰?」

「ん? この人は――私の義兄ぎけいだよ」

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