第12話  昼休みの楽しみ

 んっ――なんだろう。朝から家の中が美味しそうな香りで充満している。


綾瀬あやせくん。今日はお弁当作ったから持って行って食べてっ!」

「うん……えぇぇぇぇえ!!?? なんで?!」

「だって綾瀬くん、いつもコンビニで買ったお弁当ばっかり食べてるからさぁー。添加物取りすぎると体にも悪いしね!」

「ほ、ほんとに食べてもいいのぉ?」

「そのために作ったのぉ!」


 小さい頃に母さんがよく作ってくれていたけど、それとは訳が違う。

 今日のお弁当はS級美少女の手料理なのだ。


 こんなに幸せじゃあ全国の非リア充に呪われそう……。


「綾瀬くん、なんで泣いてるの?」

「いや、嬉しすぎてかなぁー」

「でも味は保証しないからまずかったら残していいからね」

「残しません!」


 朝から珍しく気持ちが愉快な俺は、実川みかわさんの作ってくれたお弁当をバックに入れ揺らさないように登校した。


 学校に着いて俺がロッカーの奥の方に弁当をしまっていると横から親友の遊矢ゆうやが話しかけてきた。


「おい、春。今日はやけに遅かったな」

「ハハハっ!そーだね!」

「お前どうしたんだよ!? 彼女ができないのが辛すぎてアホになってしまったのかぁ……困ったらいつでも相談するんだぞ」


 ウキウキしている俺は変な勘違いをされていてもまったく気づかない状態にまで到達していた。


 すると学校では冷たい表情の実川さんが俺の方を見て言う。


「綾瀬くん。さっきから凄く気持ち悪いの。やめてくれる?」

「え、はぁ。ごめんなさい……」


 やはり実川さんの言葉は心に刺さるもんだな。本気で言ってなくても凄い圧を感じる。

 正気に戻った俺は少し恥ずかしい気分になり机の上に顔を伏せた。




           ◆




「わぁ!!美味しそう――これって紗希が作ったの?」

「うん。今日からお弁当作ろっかなって」


 ついに昼休み。

 俺の隣の席では木村さんと実川さんが席をくっつけて昼食をとっている。

 俺はというと実川さんの作ってくれたお弁当をゆっくりと味わっていた。


「ねー綾瀬くんもこっちに来て食べようよぉー」

「あ、うん」


 木村さんに誘われ机を動かしていると実川さんの顔が曇りだした。

 俺またなんかしたかな……


「あぁ!綾瀬くんのお弁当、紗希のと似てる!」

「へぇ!?」


 そうか、弁当の中身が同じだから一緒に食べると気づかれてまずいんだった。

 これは大きな誤算。何としても誤魔化さなければ……


「これは、たまたま一緒だったんだよ。この間スーパーでたまたま会って一緒に買物したみたいな……」

「……」


 天然おっぱいオバケの木村さんでも流石にこれは気づくだろうか。

 スーパーで会って一緒に買物ってなんだよ。恋人かっ!


「へえー!? そーだったんだぁ!やっぱり二人って仲いいんだねぇー」


 なんてちょろいんだろう。ここまで信じちゃうと心配になるわ……

 こういう人は詐欺とかに掛かりやすいんだろうな。


「あぁ、そーなんだぁー ハハハっ……」


 その後も食事は続いたけど木村さんにバレることはなかった。







 ――――――――――――――――――――――


「綾瀬くん。明日からコンビニでお弁当買って行ってね」

「えぇ!?……」


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