第8話
結局何だったんだろうな。本当にストーカーが居るのかは分からないが、少しずつ絞っていくしかないか。
まずはこれまでに出た情報から条件を絞っていくか。
一つは学校からの下校限定のストーキングということ。
登校のタイミングではなく、あくまで下校。そして、休日には絶対にストーキングが行われていない。
家が特定されていないのか、単に休日までストーキングする程じゃないだけなのか。それは分からない。
また、下校時間なんてものは日によってまちまちだから外部の犯行というのも考えにくい。
もしそんな人間が居たらストーキング以前に学校の生徒に捕まっているだろう。
一つは頻繁にストーキングをしているということ。
少なくとも活発な運動部の犯行では無いことは分かる。
涼野は部活に入っていないため下校時間がかなり早い。それに合わせられるということは部活の縛りが強い所では不可能だ。
もし大が二日に一回部活を休むなんてことをしていたら首になるか説教を食らっていると思う。
だから文化部か帰宅部である可能性が高い。
そして一つ。ストーキングがもし行われているのだとしたら、中々に技術が高い。
誰かにつけられているということが分かってもなお正体を特定できずにいる。性別どころか身長すら分かっていない。
ということを加味すると、完全にこれまでの情報だけで絞り切るのは安易かもしれない。
が、現状の推測は割と当たっている気がしている。
本題はどうやってストーカーをおびき寄せるか。
一般的にストーカーが行われるのはその人に対する好意の高まりが原因だ。
恐らく今回もそうであると考えるのが妥当だろう。
ならば彼氏役を用意して犯人を怒らせてやるのが手っ取り早いが、肝心の彼氏役が機能していないんだよな。
大は運動部で一緒に帰ることは現実的に不可能。そして帰宅部で暇な時間を謳歌してそうな俺、青野夏樹は京と付き合っており、割とそれが周知の事実となっている。
同級生だけに広まっているならまだ可能性があったが、普通に他学年にも広まっていた。
恐るべし、京人気。
ならば学校内で大とカップルっぽいことをさせよう、とは思ったが学校内ではそんな気配は無いらしいんだよな。
どうしたものだろうか。
そんなことを考えていると、電話が鳴った。もうそんな時間のようだ。
『やあ、青野君』
昨日と変わりの無い様子の杉野。
「おう」
『今日も学校内とか関係なく佐倉さんとイチャイチャしていたのかい?』
「今日もってなんだ。俺らはそんなバカップルじゃねえ」
『あそこまで有名なカップルがそんなこと言うんだ』
「それは単に京の人気がおかしいだけだろ」
何をやろうにも京の事を誰かしらが見ているんだ。
隠せと言うのが無理な話だ。
世の高校生カップルは、友人や知り合いの前でそういったことをしなければバレないから発覚を防ぐことが可能だから有名になるのが難しいだけだ。
俺の身になってみやがれ。
『それもそうだね。単に京という有名人と付き合っているのを見せびらかしたいわけじゃないんだね』
「そんなこと言ってると涼野に全てばらすぞ」
『冗談だって。それだけはやめてよ』
こいつ……
「んで、今日はなんなんだ?」
『そうだね。今日は涼野さんの好きな色について聞こうかな』
「色?それはまた無難そうな話題を。もう少し踏み込んでも良いんじゃないか?」
『別にさっさと会話できるようになろう!って焦っているわけじゃないからね。別に今年卒業するわけでもないし』
「そんなものなのか」
『そういうものだよ。それに焦っても良いことなんて何も無いし。後1年半以上残っているんだからそれを有効に使ってより良い関係を結べればいいんだよ』
卒業後のことも考えるとそういう考え方もありなのかもな。
「そうか、でも色か」
割と長い間仲良くしてはいるが、そういった話題になったことは一度も無いんだよな。
「正直直接は聞いたことが無いから正しいかどうかは分からないんだが、強いて言うなら黄色とピンクなのか?」
『その二色に何かあるの?』
「大きくこれ!ってのは無いんだが、私服に割と採用される頻度が高めってのと、テニスの時のユニフォームがその色だからだな」
『そうなんだ。確かにそれなら説得力が高そうだね』
「もしかしたら違うかもしれないけどな」
『まあでも、ピンクと黄色をちゃんと選べているってことは女の子だけどこういう色は私にとって可愛すぎるから似合わないよ……みたいな気持ちとかでそうなっている可能性は低そうだし、信じることにするよ』
「杉野が信じるならそれで良いけど」
確かに涼野は綺麗系に属する女子だし、正しいのかもしれない。
『ちなみに、青野君はどんな色が好きなの?』
「俺か?安直かもしれないけど青が好きだな」
『青野だから?』
「そうだ」
『意外とそういうとこあるんだね』
「悪かったな」
『とりあえず、青野君の好きな色も併せて、ちゃんと覚えておくよ』
「そうですかい」
『ちなみに、涼野さんのテニスの大会とか見に行っても大丈夫かな?』
もしかしてこいつユニフォーム姿が見たいのか?
確かにあいつは美人で、スポーツウェアも似合うから、興味が出てもおかしくはない。
「涼野と話したことも無いのにか?」
流石にそれは仲良くなってから来るものだろう。
仲良くも無いのに応援に来てたらそれこそストーカーだ。
『それもそうだね。流石にやめておくことにするよ』
「それがいい」
こいつがストーカーの正体にせよ、そうでないにせよ、お互いにとってマイナス以外の何物でもない。
もし仮にストーカーが居なければ許可していたかもしれないが。
「そういえば杉野、俺と同じで帰宅部だったよな?」
『そうだけど、それがどうかしたの?』
「いや、少し気になっただけだ」
『何それ。もしかして僕が一流のスポーツマンだったらどうしようとか考えてた?』
「それはねえなあ。筋肉が足りなすぎる」
どのスポーツであれ大を超えるくらいじゃないと一流にはなれない。
スポーツを真面目にやった経験が無いので偏見でしかないが。
『それは手厳しい』
『じゃあ今日はこのくらいにしておこうか』
「そうだな」
俺は電話を切り、眠りについた。
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