第2話

「ああ。青野か。木村が荷物を運んでいた最中に資料をどこかに落としてしまったらしくてね。今週中に必要だから探しているんだよ」


 木村佐紀。生徒会の庶務を務めている小さな女の子だ。身長は京より少し大きいくらいで、自分の背丈よりも大きな服を着ているのが特徴だ。


「それなら手伝おうか?京、ちょっとだけ良い?」


「勿論!」


 そう言って京は俺の体をよじ登り、肩車の体勢となった。


 手伝ってくれるわけじゃないんだな。


「ごめんね、青野君」


 美月さんと呼ばれる人物。東美月さんが俺に謝った。彼女は生徒会の書記で、眼鏡をかけた大人しめな印象を受ける女子だ。


 ただその姿とは裏腹に、生徒会の裏のボスだとか髪で隠れてはいるけどピアスが大量に空いているとか、服の下にヤクザさながらの巨大な入れ墨が入っているとか恐ろしい噂が存在する。


 まあ実際にはそんなことはなく、休日に少し舌と耳にピアスをお洒落でつけるだけのただ優しい女の子なのだが。


「別に良いよ。部活も入ってないから暇だし」


「ありがとう」


 俺は京を肩車したまま、木村さんが通ったであろう場所を探し回っていた。


 すると、


「あった!!!」


 京が書類を見つけたようだった。


「何故靴箱の上にあるんだ……」


 靴箱の上にあった書類を見て、頭を抱える会長。


「えっと…… なんでだろう」


 木村さんは何故そうなったのか思い出せないご様子。


「とりあえず書類が見つかって良かったよ」


「そうだね。ありがとう」


「お礼もかねて生徒会室に来てくれないか?」


「行く!」


 会長の提案に京が即答し、生徒会室へと行くことになった。


「相変わらず金かかっているよね……」


 俺は思わずそう声に出した。


 普通生徒会室は教室以上職員室未満位の快適さであることが多いのだが、何故かこの学校の生徒会室は校長室並みに過ごしやすい。


 話によると、少し前の生徒会長の趣味がDIYだったらしく、生徒会室に使用する予算を使用して自ら改装した結果こうなったとのこと。


「とりあえずそこに座って。お茶とお菓子を用意する」


 そう言って会長はお茶を入れていた。


 俺たちは来客用のソファに腰かけた。当然の如く京は俺に密着している。


「本当にありがとう!一時はどうなるかと思ったよ!」


 俺と京が密着したことでソファに生まれていたスペースに木村さんは座り、京に抱き着いた。


「別にいいよ。よしよし」


「大好き!」


 抱き着く木村さんの頭を撫でている京。まるで親子のようだ。さっきまで俺に無理やり肩車させていた人の所業じゃねえよ。


「ここまで佐紀が懐くなんてね。流石京さんだよ」


 その光景を見て、京をほめる東さん。


「まあ京だからなあ…… 何も考えていないと思うけど」


「準備できたよ」


 お茶の準備が出来たらしい。


「うわあ美味しそう!!」


 出されたのは会長自慢の緑茶と、有名な和菓子屋の羊羹だった。


「はいはい食べて食べて」


 俺たちに食べるように促す会長。


「いっただっきまーす!」


 促されるがままに羊羹を食べる京。しかし俺は手を付けなかった。


「どうしたんだい?青野。早く食べなよ」


 会長に羊羹を出された場合、何かしら面倒なことに巻き込まれる合図という噂が存在するのだ。


「はあ、いただきます」


 それでも京が既に食べてしまったので、食べる以外の選択肢は無いのだが。


 一口羊羹を食べる。


 すると、今までの羊羹とは一線を画す出来栄えだった。あんこの甘さが絶妙で、一切のくどさを感じさせない。スルッと口に入っていくが、普通の寒天特有の水っぽさは感じず、ちゃんと羊羹であると感じる食べ応えだった。


 お茶はお茶で羊羹にあった適切な温度に調整されており、あくまで引き立て役として羊羹を立てており、一層羊羹の満足度を加速させた。


 確かにこれであれば多少面倒な頼みごとをされても仕方がないな。


「青野は何となく察していたようだけど、実はお願いがあるんだ」


「どんなの?」


「二人には他校の生徒との交流パーティーに参加して欲しいんだ」


「何故俺たちが?」


「生徒会はそのパーティーの準備には関わっていいが、参加は出来ないというルールでね。信頼できる人に頼もうと思っていたところなんだ」


「青野君は普通に信頼できるし、京さんはほら、外からの信頼が厚いでしょ」


「そういうことね」


 京は同級生の人たちには可愛がられるポジションだが、他学年や、他校の生徒からは頼りになる凄い人という扱いを受けているのだ。


 中身はこんなだが、成績優秀で絵のセンスが良く、定期的に賞を取ってくる。実は割とハイスペックなのだ。


 そのせいで実績と風貌しか知らない人たちからは尊敬のまなざしで見られている。


 京の事を理解している同級生しかいない場では表に立つことはあまりないが、それ以外が絡んだ瞬間に色んな所から引っ張りだこな存在に変貌するのだ。


「というわけで参加してくれないか?」


「いいよ!」


 京が行くと宣言したため、なし崩し的に俺も参加することになった。

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