ツツノシン その2

 『ハニートラップ作戦』は僕の想像以上に効果があったようだ。オカルトインフルエンサー、ツツノシンに送ったDMは、わずか十分も経たない内に返信が来た




「――今週の土曜日、大阪梅田のカフェ『星の泉』まで来い。必ず四分谷とか言う女を連れてな」




 随分と乱暴な返事だ。僕は少し気を悪くしたが、頼み事をしている性分、ここは低姿勢にいかないと。




「――お返事ありがとうございます。必ず彼女と同伴で伺わせていただきます。お時間はいつ頃がよろしいでしょうか」




 僕は簡潔に、要点だけをまとめて返信をする。このツツノシン、やはり男だろうか。四分谷をダシにアポを取ることに成功はしたが、あまり変な要求をされても困る。それこそなにがしか、スケベな要求などされたら僕の信用まで失いかねない。いざという時は、僕がしっかり守らなければ。そう決心している内にツツノシンから返事が来た。




「俺は朝からそこにいる。昼までに来てくれたら問題ない。それと、別にお前は来なくていいぞ。女さえ来ればいい」




 返信の一文字一文字から、ツツノシンの傲慢不遜さが感じ取れた。なんて生意気なやつだ。カバオも連れて行ってビビらせてやろうか。あいつは図体もでかいが、空手に柔道の経験もある。並大抵の男では歯がたたない筈だ。こんな事を考える僕はまるでドラえもんのスネ夫みたいじゃないか。虎の威を借る狐。カバオの威を借る倫太郎。




「――了解しました。十時頃に伺わせていただきます。お忙しい中わざわざありがとうございます」




 僕が返信を送ると、一分も経たず返事が返ってきた。




「――誤 了解しました → 正 承知しました  誤 お忙しい中わざわざ→重複表現になります」




 ご丁寧に訂正ありがとうございます、この野郎。





 次の日、僕は四分谷にツツノシンとのやり取りを教え、土曜日に大阪梅田で会いに行く旨を伝えた。四分谷は僕が勝手に話を進めたことに幾分、機嫌を損ねていた。そりゃあ、いきなり見ず知らずの人と会えと言われたら僕だって困る。しかし、河童のためには手段は選べないんだ。許せ、四分谷。


「約束したのなら仕方がありません。けど、変な事を頼まれても私は引き受けませんから!」


 なんだ、四分谷もやましい事を想像しているのか。そう思うと何故か僕も妙に興奮してしまった。僕はカバオとは種類の違う変態なのだ。


「分かってるって、もし何かいやらしいけしからん淫靡で猥雑な事を交換条件に出されたら、この話は無しだ。そんなことは僕だってやらせるつもりはない。むしろ、そんな事を言ってきたら録音しておいて、脅してやるよ!」


「先輩を頼りにして良いのか、甚だ疑問です」


 さて、土曜日はどうなることやら。

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