シンケン勝負~シンの勝者になるために~
水野むつき
序章
莉子の日常と依頼
容疑者その一、
「
容疑者その二、
「私が食べたのは莉子さまが楽しみにしていたショートケーキだけですわ。私より先に
容疑者その三、
「白藤殿からココアを用意しろと言われたので牛乳を取り出していただけです。自分が来た時にはすでに冷蔵庫にプリンはありませんでした。そもそも
三人が三人とも無罪を主張する。
ムムム、これは難しいぞ。
跪いて私の言葉を待つ同い年の護衛たちをよそ眼に、お兄ちゃんの方を見た。
「この中に本当に犯人はいるの?」
お兄ちゃんは静かに首を縦に振る。
「もちろんだ。疑わしきやつは全てこの部屋に集めてる」
「えー……、全然わかんないんだけど」
「間違えた場合、今日の晩御飯は莉子の苦手なピーマンを大量に使った料理だ。料理番の
「!」
なんて恐ろしい罰ゲーム……!
ピーマン嫌い。
これは本気で当てに行かないと!
一番怪しいのは鈴音だよね。なんせ私のケーキを食べてる。っていうか、プリンとは別に鈴音には説教が必要なのでは?
あー、でも、鈴音より先に冷蔵庫の中を確認した彰隆がプリンはなかったって言ってるからプリンに関しては本当に違うのかも。
じゃあ、彰隆が犯人?
いや、もし彰隆が犯人なら「プリンはあった」って言った方が鈴音に犯行押し付けられて得だと思うんだよね。
プリン買ったかなんてレシート見れば一発でわかるんだし。
「
「レシートは捨てました」
なにぃ。
それじゃ、本当に買ったのかどうかわかんないじゃん。
誰だ?
誰が犯人なんだ?
プリンを買ってない。→隼翔。
プリンは買ってたけど、最初に見つけて食べた。→彰隆。
プリンは買ってたし第一発見者は食べてないけど、彰隆を脅してウソをつかせている。→鈴音。
どれも正しく思えてきたぞ。
あー……、うー……。
しっかりしろ、私!
間違えたらピーマンなんだ。
何としても見つけなきゃ。
私の家来でありながら、私のプリンを食ったバカタレを──。
──待って。
お兄ちゃんは何て言ってた?
「疑わしきものは全てこの部屋に集めてる」?
なんか気になる言い方。
これじゃまるでお兄ちゃん自身も……。
「わかった! 犯人はお兄ちゃんだ!」
目の前の三人はかく乱用。
真犯人はお兄ちゃん。
自信たっぷりに指をさし答える私にお兄ちゃんは優しく微笑み、
「全然違う」
ばっさり切り捨てた。
「えっ──」
「食べたのは俺です」
代わりに隼翔が名乗りを上げる。
「買ったはいいもののお腹がすいていたので冷蔵庫に入れる前に食べました」
まったく悪びれもせずに言い切った。
そんなー……。
ちらりと横目でお兄ちゃんを見る。
「……やっぱりピーマン?」
「ああ。ただし莉子が俺の頼みを聞いてくれるっていうんなら許してやる」
「やった! 聞く!」
もろ手を上げて喜ぶ。
「プリン食べられた上に頼みを聞かされるって騙されてるぞ、莉子様」
「
プリンを食べた隼翔とショートケーキを食べた鈴音が何か言ってる。
二人を無視して彰隆にだけ笑いかけた。
「彰隆も手伝ってね」
「それはもちろん手伝いますが……」
彰隆はお礼を言いつつ私の両腕を見た。
私の両腕には無視されたとわかった瞬間、子泣き爺のように引っ付いてきた隼翔と鈴音が。
「冗談だから無視はやめてください」
「ケーキもプリンも私たちが作りますから」
この二人は私をからかうくせに私が冷たくあしらうとすぐこうなる。んで、彰隆がおろおろする。
さめざめと泣いてるけどもう少し反省しててもらおう。
「二人で頑張ろうね」
「莉子様~」
「私たちも~」
「で、お願いって何、お兄ちゃん?」
「あ、ああ……。実は大学の先輩にこんなの渡されてな」
私たちの様子に若干引きつつお兄ちゃんがポケットから手紙を取り出す。私の両腕は鈴音と隼人ですでにふさがっているので彰隆が代わりに受け取った。
コホンと咳ばらいを一つして彰隆が文面を読み上げる。
「依頼状。退治屋『シン』から退治屋『タナベ』殿へ」
「!」
最初の一行を聞き、両腕にくっついてた二人を振り払って彰隆から手紙をひったくった。
「い、依頼状――!」
聞きたくてもめったに聞けないその言葉に一瞬幻聴を疑ったけど、手紙にしっかりと書いてある。
立ち直った隼翔と鈴音も私の後ろから手紙を覗き込んだ。
手紙はかしこまった文章で書かれてて全文読むと長いので要点だけ。
妖怪退治屋『シン』の次期当主と目されている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます