手が使えない不便さもお世話される喜びには劣る
どうしてこうなった……。
シャワーが流れ頭の上から泡が落ちる。裸の俺の背後には悠が立っていた。さすがに彼女は服を着ているが、濡らしてもいいように薄着だ。
「痒いところございませんか~?」
「いや、大丈夫……。」
まるで美容師のように俺の頭を洗ってくれるが、緊張してそれどころではない。
右手が痛みで開けないのでまともに風呂に入れず、服を脱ぐ時点で苦労しているとそれに気づいた悠が手伝いに来てくれたのだ。下着までは手伝わなくていいと言ったが、無理に押し切られてしまった。
「はい、じゃあ湯船行きましょうね。」
「俺は子供か……!?」
しかし、ここ数日手に負担がかかっていたのも事実。休憩も挟まずにパソコンの前でタイピングを何十時間と続けていれば指がぶっ壊れるのも当たり前のことだ。
体調管理がまともにできていないという意味では子供みたいなものだろう。
「マッサージしてあげますから、手出してください。」
ビクビクと痙攣している右手を差し出すと、付け根の当たりを軽く押されながらゆっくりと手のひらが開かれる。目の前には微かに透けた悠の双丘があり、痛みどころの話ではない。
視線に気づいたのか、くすくすと笑ってデコピンを食らわせてくる。
慌てて視線を外したが、彼女の手元に目を落とすと、どうしてもそちらに引き込まれてしまう。
「もう!!恥ずかしいんですけど。」
「ごめん。けど、どうしても気になって。」
簡素なデザインの下着―おそらくナイトブラというやつだろう―を付けているため、乳首が見えるということはさすがにないが、緩い設計のため谷間が見え隠れしていて艶めかしい。
「どうです?まだ痛みますか?」
「ん。おお、かなり軽くなった。ありがとうな。」
完全に痛みが引いたわけではないが、血行が良くなったのか先ほどまでよりはマシだ。
手の痛みが引いたということは、これ以上悠と一緒に風呂に入る必要はないということ。体も洗ってもらうという最悪のパターンも考えていたので、そうならず助かった。
「じゃあ、私は先に出ていますね。」
「ああ、もう遅いから先に寝ててくれ。」
まだ親指の動きはぎこちないが、体を洗うぐらいは出来るだろう。
しばらくシャワーで済ませていたせいで、湯船の温かさが心地いい。いつもより長風呂をしてから出ていき、体を拭き終わって服を着ようとする。
「あれ、結構いたいな……?」
悠のマッサージはあくまで応急手当。
完全に治ったわけではないし、コリの原因は今まで蓄積していた分だ。しばらく安静にするか、接骨院にでも行かなければならないこと。それを横着すれば再発するのは当たり前のことだった。
「悠ー。ごめん、もう一回手伝って……!!」
「そんなに痛いんですか!?もう、あんまり無理しないでくださいね。」
「いやぁ仕事だからな。」
確かにストレスの量は会社員時代に比べて格段と減っているが、仕事の量は白鯨と二人で進めているため、前より多くなっている。体にかかる負荷も格段と違う。
だんじて年齢のせいではない。
たった一年では、そこまで変わらない……はずだ。多分。
……to be continued
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