ショート:獅子龍兄妹の休日
昼間だというのにカーテンを閉めた薄暗い部屋で一人の男があおむけで倒れていた。呼吸をするたびに腹が上下している。
無造作に転がっているのは、手あかのついた黒ぶち眼鏡と昨日飲んでいた缶ビールの空き缶だ。
「んん……。」
微かに漏れた光から逃れるように身じろぎをする。すると、袋の開けられたスナック菓子を押し潰してしまい、粉末状になった中身が勢いよく飛び出した。
「んあ!!あー。やっちった…。」
寝起きということでいつもの厨二病も成りを潜めているようだ。
目をこすりながら手探りで眼鏡を探す。躊躇なくレンズを鷲掴みすると、荒々しい手つきで眼鏡を掛けた。熊のように大きく口を開けてあくびをしたかと思うと、カーテンの方へと向かう。
起きたから開けるのかと思えば、その逆に、深々と閉め切ってしまう。
のそのそと部屋から出て一回のリビングに向かう。老眼鏡をかけた母がテーブルに腰掛け新聞を読んでいた。否、新聞に挟まったチラシを熱心に読んでいる。
「おはよう白鯨。」
「おはようでござる。母上殿、食事を至急お願いするであります。」
また大きく欠伸をすると、眠気覚ましに脱衣所に向かった。
呆けた頭のまま洗面台に向き合うと、隣からシャワーの音が聞こえることに気づいた。察しのいい読者諸君は気付いているだろうが、
「おーまいおー。これ、なんてエロゲ?」
一人軽口を叩きながらゆっくりと部屋を出ようとするが、時すでに遅し。無情にもシャワーの水音は止まり、鼻歌を口ずさみながら
「…………」
「…おーまいおー。」
キャァァァ!!!と大絶叫が家中に響いた。
「な、何してんのお兄ちゃん!!」
「ご、ごめんでござる。すぐにでるから…。」
怒りのためか、はたまた羞恥心か。顔を真っ赤にしながら姫蘭は怒鳴った。それに怯えながら脱衣所から出ていくが、白鯨の頭の中には妹の裸体で埋め尽くされていた。
細い首筋、健康的に引き締まった体に、小ぶりな尻。ツンと突き出したちk……
「これ以上はジャンルが変わってしまうでござる!!危ない危ない。」
必死に頭から追い出すと、驚いてやってきた母親と目が合った。
「あんた、何してんの?」
「何でもないでござる」
風呂場の前で蹲る息子に不審な目を向けると、朝食が出来たことだけを伝えて引っこんでいった。ため息をつきながら白鯨が立ち上がると、下着を身に付け体の大部分をバスタオルで隠した姫蘭が出てくる。今度は彼女が逃げる番であった。
リビングに戻った白鯨が少し遅い朝食を一人で食べていると、大きなフリルの付いたブラウスを着た姫蘭が向かいの椅子に座った。不機嫌そうな顔をしながらスマホを操作すると、白鯨の方へと向けてくる。
「ん??ゆるふわ生クリームパンケーキ…。」
「あー。甘いもの食べたいなぁ。そういえば、今日誰かさん仕事ないって言ってたなー。」
明らかな棒読みだが、可愛いおねだりの仕方に思わず笑ってしまう。だらしのないスウェットから姫蘭に選んでもらった服に着替えると、財布と車のカギを持って戻ってきた。
「え、別にご飯食べてからでもよかったのに…。」
「いいから行くでござるよ。我も糖分を欲しているのでな。」
嬉しそうにぴょんと飛び跳ねて白鯨の後ろをついて行く。そんな二人の様子を母は生暖かい目で見ていた。
……to be continued
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