Chapter4:裏社会だってリアリスト思考 ①
「今日も暑いったらねーなー」
日々暑さを増してゆく七月下旬。もはや感想が暑いしか浮かんでこない。
今日は一日冷房ガンガンの部屋でクソゲーでもして時間を潰そうかと考えてたんだが、母さんから「暇ならおつかいに行ってきなさい」と言われてしまった。
ドラ息子の俺には断る理由も権利もないので、購入リストを握り締めて近所のホームセンターまで歩いている。
猛暑は容赦なく俺の体内から水分を奪い、Tシャツをびしょびしょにさせやがる。
この真夏に野外で働く方々には心の中で感謝の気持ちと敬意を
良いか悪いか、夏休みシーズンの土日でも平坂商店街は人通りがまばらなため、人混みの心配もなく歩ける。
人混みが激嫌いな俺にとっては都合がいいが、商店街で働く方々の心情を察すると大変よろしくない。
平坂市民は買い物や遊ぶ際は電車で
平坂市は東西北三つの市と隣接しているが、隣接市はいずれも栄えた都会の地であり、それらに囲まれた平坂市は異質な存在と言えよう。無論、悪い意味で。
商店街を真っ直ぐ歩き続けること数分。
いかつい身なりのいかつい
何事かと気になってしまったので、俺は男の元に向かうことにした。
俺が寄ってきたことに気づいた男は、
「よぉ兄ちゃん。よかったら見てってくれや」
白い歯をキラリと光らせて笑顔を向けてきた。
いかにも極道やってますって見た目のシュッとしたワイルドイケメンだ。
ツンツンに逆立った黒髪、両耳にはピアス、首にはぶっとい金のネックレスをぶら下げている。おでこにはサングラスが乗っており、見るからに怒らせたらおっかない系お兄さんって装いだ。脱いだら
ブルーシートに並べられている商品も普通に生きてたらまずお目にかからない代物だった。
「モデルガンですか?」
そう、並んでいるのは拳銃の数々。種類も様々。
「ちげーよ。モノホンの拳銃たちだ」
「まったまたーご冗談を~」
俺がハハハと大笑いすると、男が商品の一つを手に取って引き金を引くと――
パァーンッ! ドゴォッ!
今、パンッって音したよね!? パンツの聞き間違いじゃないよね? 聞き間違いの方がまだマシだったんですけど。
ついでに銃弾が命中した電柱を見ると、ヒビが入っていた。
「ご覧の通り、本物だ」
男は器用に銃をくるくると回してブルーシートに置いた。
銃口からは
「なんで
しかもなぜ銃弾が入ったまま売りに出してるんだよ! 悪意を持った輩に渡れば殺人事件に発展する危険性だってあるぞ。
「そらおまアレよ。コレよ。だからソレを売ってる」
男は右手の親指と人差し指で丸を作った。お金に困っているらしい。
ヤーさんも色々と苦労しているようだ。人生色々、
「ヤーさんにも世知辛い世の中ですね」
「一気に見下すような視線送ってくんな。東京湾に沈めんぞ」
「突然物騒ですね」
苦労してるなぁとしみじみしただけなのに沈めると脅しをかけてくるとは、これまたずいぶんと
「ところで、なぜ俺が組のモンって分かったんだ?」
「いやぁ見た目通りっていうか……」
その見た目でカタギです~って方が、色々と誤解されまくって人生辛そうだからこれでよかったまである。
大変そうなヤーさんに、疑問に感じたことを聞いてみよう。
「普通に働いた方が稼げるのでは?」
この俺ですら、前に日給で一万円ちょいもらえたぞ。
「俺にゃこんな生き方しかできねぇ。不器用な男よ」
「カッコつけてますけど、悪の化身の一員ですよね?」
自身の境遇をあたかも美談かのように
「馬鹿野郎。
「ファ、FAMILY~……」
で、出ましたファミリー発言! アットホームな職場ですレベルの地雷! 知らんけど。
あと組の名前斬新すぎない? 響きが最高にダサいんだけどバカにしたら確実に埋められるから言えない。
「一応聞きますけど、銃の販売は犯罪ですよね?」
日本では許可を受けていない者の銃所持および販売等は銃刀法で禁じられている。所持できるのは警察など必要な者だけだ。法律を破った場合は当然しょっぴかれる。所持も
「ここは日本の中の東京の中の平坂市だぞ? 日本ではない。よって無罪。ノットギルティ」
「ん、んんぅ??」
つまり、日本=東京=平坂市≠日本ってこと? おもっくそ矛盾しきってない? 公式成り立ってないよね?? 平坂市は治外法権エリアだったのか。いやぁ知らなかったなぁ。
このあんちゃんも平坂市に脳を汚染された被害者の一人のようだ。
あとなんで最後英語かぶれなんだよ。
ツッコまずにはいられまいと口を開いた瞬間――
「なんだ、また銃弾ぶっぱなしたのか、
「これはこれは市長」
で、出ましたぁ~! クソ市長がまたしても登場しやがった。毎回毎回ホントにさぁ。
てか、ヤーさんのあんちゃんは青柳って名前なのね。
「あんまりやりすぎるなよ」
「わぁあってますって」
「――おう?」
と、市長の視線が青柳さんから俺へと移る。
「誰かと思えば片倉じゃん。なんだ、ヤーさんの仲間入りでもすんのか?」
青柳さんと一緒にいるのが俺だと知った市長は途端に舐めた口調に変わった。
はいはい、俺みたいなボンクラを見下してストレス発散、お疲れ様です。
おまけに「お前にはそれがお似合いだな」とほざいて
「似合うからこうしても構わないよなぁ?」
俺はブルーシートに並べられてるマグナムをぶんどって銃口を市長の喉元に突きつける。
「お、おい。冗談はよせ。殺人罪で服役してぇのか?」
「ここは平坂市だから関係ない。アングラワールドを作り出した自分自身を恨むこった」
市長はたじろぎ、冷や汗をかいている。
そうそう、お前のそのツラが見たかったんだよ。もっともっと見せてくれや。
「お、おお落ち着け――まだ十六そこらで人殺しとはどうかしてるぞ……!」
市長は一丁前に俺を
「あばよ、市長。せいぜいあの世で威張ってな――!」
引き金に置いた人差し指に力を込める。
――その瞬間。
「待った。未購入のチャカを勝手に使うな。犯罪だぞ」
間一髪で青柳さんが銃口を手で塞いできたので俺は慌ててマグナムを下ろす。
「ここ平坂市では!?」
法律が適用されない危ない街では!? 万引きは適用されるのかよ!
……常識的に考えて、法律が適用されないはずがないよな。以前賽銭ドロは普通に警察に捕まったし。平坂市に常識が通用するのかは謎だが。
「ふぃー。ったく、本当にお前はクズ野郎だなぁ!!」
青柳さんに命を救われ、落ち着きを取り戻した市長は青柳さんの背後に隠れて俺を
「悔しかったらやり返したらどうですか?」
俺は市長を挑発するも、ヤツは鼻を鳴らすだけで、
「殺人で捕まるだろ。お前ごときを殺して市長の座を失っても俺に旨味がねーよ」
煽りには乗ってこなかった。ちっ、失うものがあると犯罪に手を染められねえってか。
コイツの場合は市長ってご立派な肩書きがある。是が非でも手放したくはないだろう。
「片倉みてぇな失うものがねー輩は怖ぇ怖ぇ」
「夜道は背中に気をつけてくださいね」
「毎日暗くなる前に定時で帰っとるわガキが!」
お前はもっと真面目に公務しろやと思っていると――
「ぐはあっ!!」
突然何者かに背後から背中を思いっきり蹴られ、俺は地面にうつ伏せの状態で倒れた。
「市長を
声の元へと顔を向けると、ミルライク議長がこちらを向いて立っていた。
ワイシャツのサイズが合ってないからところどころボタンがなくなってるしさぁ。こんなんがよく公務員やれてるよね。いや、やれてはいないっぽいけど。
「市長が消えたら俺も職を失うだろうが!!」
「ぐぐ……」
ミルライク議長は馬乗りになって首を絞めてきやがったので抗議の言葉すら出せない。
「OK。その辺でSTOP。KILLはNGだ。役所にREVERSEしてTOGETHER公務しようぜ!」
「イエス、ボス!! おい貴様!! 市長の寛大な
「げほっ、ごほっ」
ぐぐ……コイツらマジでさぁ……。
市長の制止でミルライク議長は俺から手を離し、なんとか呼吸ができるようになった。
それはいいけどなんで市長の野郎は唐突にやたら英単語をねじ込みまくったんだ?
「よし行くぞ! 無敵のニートマンからこれ以上命を狙われちゃたまんねぇからな」
市長の難解な思考回路について考察していると奴は身を
「はい市長!! おい
「あ、ハイ。どうもすんませんした」
さすがに悪ふざけがすぎたので
え? もちろん本気で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます