第五出動 月花解放プロジェクト、始動! ⑦

「私もね、過去にあんたと同じ経験があったの。好きな人がいたけど自分からアタックできなくて、向こうから来てくれるのを待ってて――――そしたらその男の子は違う子と付き合っちゃった。しかも、後から聞いた話だと男の子は私のことが好きだったけど、自分にアプローチしてくれた女の子に気持ちが傾いたって」

 大平の過去が語られる。

「しかも当時の私は男のくせに自分からアタックせずに女から言い寄られて付き合うとか、受け身すぎだろって勝手に逆ギレしてた。愚かだったわ。アタックすることに性別は関係ない。だから私はその経験から自分は思ったことは言おう、したいと思ったことはしよう。それを信条にしてるの。その方が後で後悔しないから」

 大平は過去の苦い経験から、今のスタイルを確立したのだ。

「だから、あんたには同じ思いをしてほしくなかった。動かずに、ただ恨み節を放つ醜い存在になり果ててほしくなかった。立川くんを近くから眺めていてもそれはささやかな幸せだとは思うけど、そんな幸せは偽物なのよ。あんたには妥協してほしくなかったのよ」

 自身の後悔もあって、大平は月花の学院生活にとてもからいスパイスを加えたのだ。

「……とはいえ、色々悪かったわ。ごめんなさい」

 立ち上がった大平は月花に深く頭を下げる。

「こちらこそ、色々ありがとう。これからも、よろしくね」

 月花も同様に頭を下げた。

 二人は仲良く頭を下げ合った。

 二人の会話を一部始終聞いていたクラスメイトたちからは、大平への苦言も含めて雑言が吐かれることはもうなかった。

(やれやれ、結局最後は女同士の軋轢あつれきだったな)

 話を聞いた銀次は、結局心の底から悪い奴はいなかったのだと深く深く安堵あんどした。

(女はみんな自分がプリンセスだと思ってんのかな。だから自分が一番。自分よりモテたりチヤホヤされたりしてる奴を見ると、足を引っ張りたくなるのかね)

 銀次は一連の騒動を考察するが、男の自分ではいくら考えても答えは導き出せない。

(しかし、学院にいればこんな体験もあるんだな)

 銀次は一人勝手に無駄だと切り捨てた半年もの間に、色々なものを得る機会を投げてしまったことを悔やむ。季節は冬真っ盛りだが、自分の時間は高一の春で止まったまま。

 失った半年間を、挽回できるだろうか。

「……こんな俺でも、人並みの高校生活を過ごす権利があんなら、もうちっと通ってみるのも悪かねぇな」

「権利云々じゃないよ。これからも、橋本君にいてほしい。学園に。ワーストレンジャーに。そう――側に、いてほしい」

 銀次のかたわらまでやってきた月花は、彼に満面の笑みをお披露目した。

(そ、側って……勘違いするようなこと言うんじゃねー! 天然か!?)

 他意はないと分かってはいるが、銀次は月花に潜む小悪魔的な一面を垣間かいま見た気がした。

(だが、今のお前は――自然体な最高の笑顔だぞ)

 引きつり笑いでも愛想笑いでも作り笑いでもない、無垢むくな笑顔がそこにはあった。


    ●●●


(僕も想いを寄せるのみで受け身な以前の時雨は気に食わなかった。けれど、前に進んだ君は輝いてるよ)

 優は心中で月花を称えた。


    ●●●


 ワーストレンジャー周りの騒動は、銀次の価値観を塗り替えるには十分で。

 ガラス職人の夢は諦めていないけれど、今はどうか。

 この学院生活に、いろどりが生まれますように。

 そう願い、銀次は窓から青空を眺めたのだった。


    ▽▽▽


 みんな、ありがとう。

 橋本君は私がワーストレンジャーの起爆剤と言ってくれたけど、そうなれてたとしたら、それはワーストレンジャーのみんなが私に手を差し伸べてくれたから。

 臆病で殻に閉じこもっていた私を光ある場所へと引っ張り出して、連れ出してくれたから。

 だから恋愛とか、家族とか、目を逸らし続けていたものに立ち向かう勇気が生まれた。

 平坦無色だった私の学院生活に初めていろどりが生まれた。多種多様な色が塗り込まれた。

 個性は毒にも薬にもなると知ることができた。

 乗算計算と同じで、マイナスをかけ合わせればプラスになると教えてくれた。

 そんなみんなに伝えたい、感謝を。

 人生って、こんなにも楽しくて、時には苦しくて。

 けれど、その経験全てがこれから先、長い人生を駆け抜ける上でのかてとなるから。

 今後も幾度となく壁にぶち当たるに違いないけど、くじけずに乗り越えたい。

 そして何よりも、私もたくさん助けてもらったから、今度は私が誰かの力になる番だ。

 だから、これから先もみんなで支え合っていこう。

 ワンフォアオール、オールフォアワン。

 一人はみんなのために、みんなは一人のために。時には意見をぶつけあったりもして。


 そんな、ありきたりだけどかけがえのない学院生活が続きますようにと、私は祈った――

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