第84話:電光石火の皆殺し

 皇紀2223年・王歴227年・初夏・フリーマン地方


「城内の敵は全員眠らせた、身ぐるみ剥いで丸裸にしろ」


「「「「「ウォオオオオオ」」」」」


 俺は本拠地から電光石火の速さでフリーマン地方に向かった。

 途中でスティントン地方とレイ地方の駐屯している将兵を動員した。

 もちろん領内の統治と再建に必要な将兵以外に限っている。

 だから四万兵の内二万兵しか連れて行けなかったが、俺の睡眠魔術で眠らせた連中を確保するだけなら、二万もいれば十分だった。

 問題が起こるとしたら、敵と、敵の敵であるアザエル教徒を確保してからだ。

 まずは謀叛を起こした領内貴族の処分からだ。


「さて、最初に言っておくが、領主を追い出して幼君を傀儡にした不忠極まりない連中は処刑する、この決定に変更はない。

 だが、処刑するのは不忠を働いた本人だけするのか、一族や家臣にまで及ぼすのかは、お前達の考え方の決断次第だ。

 いや、殺すと言った言葉は撤回する。

 この前逆らった連中と同じように、奴隷として異国に売り飛ばす」


「どうか、どうか異国に売り飛ばすのだけは御許しください」

「売春婦にされようと犯罪者奴隷にされようと忠誠を尽くさせていただきます。

 その代わり、異国の奴隷として売り払うのだけは御許しください」

「俺も忠誠を尽くさせていただきますから、異国売るのだけは御許しください」

「誓います、魔術契約で忠誠を尽くす事を誓います」

「俺もです、俺も逆らったら死ぬ魔術契約をします。

 だから家族をばらばらにして異国に売るのだけは許してください」


 俺が行った異国に奴隷として売り払う刑は、この地方ではとても恐ろしい極刑だと思われているようで、不忠の騎士や家族を極度に怯えさせた。

 命を代償に魔術契約をすると言うのは、生死を完全に俺に預ける事になる。

 普通なら王や貴族が率先して行うと思われる魔術契約だが、残念ながら制限があって、よほど重要な相手にしか行わない。

 何故なら、魔術契約中ずっと契約者同士で魔力を消費するからだ。

 今のように身分が高いほど魔力の少ない世の中では、絶対に不可能なのだ。


 だが、俺ならば、やってやれない事はない。

 四万人であろうが四十万人であろう、契約に必要な魔力を使い続けられる。

 だが、そんな無駄な事に魔力を使うくらいなら、非常用に蓄えておく。

 いや、それよりは穀物の促成や魔境での狩りに使う。

 その方が忠誠心を得られるし、食糧も得られる。

 だから俺が命を代償にした魔術契約を配下に強要する事は、滅多にない。

 少なくともこれまでは一度もやった事がない。


「お前達ごときのために魔術契約をする気はない。

 だが、その言葉が本心からかどうか、一度だけ試してやろう。

 故郷であるこの地を捨てて俺に仕える事ができるか。

 一兵卒として、今まで見下していた雑兵に命じられる事に耐えられるか。

 耐えられるというのなら、家族が一緒に暮らせる雑兵長屋に住ませやる」


「やります、やらせていただきます」

「どうせ奴隷になったら、その一兵卒に命じられ、身体と誇りを奪われるのです」

「家族で暮らす事を許して頂けるのなら、それで十分でございます」

「武功を立てる機会を与えていただけるのなら、忠誠と武を証明できます」

「どうか一兵卒として仕えさせてください、お願いします」

「「「「「お願いします」」」」」


 さて、これで歴戦の騎士家兵士を自軍の中に取り込む事ができた。

 次にやるべき事は、アザエル教徒の取り込む事だが、どうすべきだろう。

 考えつく方法はいくつかあるが、どれも一長一短がある。

 安全に行くのなら、全教徒を強制的に自軍の取り込む事だ。

 だがそれをやると、この地方の農地を手入れする人間がいなくなる。

 一年手入れを怠ったら、農地など簡単に荒地や草原に戻ってしまう。

 それをまた農地に戻すには大変な労力が必要になるのだ。

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