第72話:自由都市狂乱
皇紀2223年・王歴227年・早春・自由都市
俺は居城に戻って残余の兵を搔き集めた。
兵農分離を行った以上、どれほど苦しくても農民や職人を徴兵できない。
彼らが戦うのは、領地に攻め込まれた時に、籠城して自分や家族の命を護るため籠城する時だけだ。
だから本来守備に使うはずの戦闘侍女や嬢子軍、老若兵を動員した。
俺は意識的にアザエル教団四地方聖堂騎士団二十万兵を殲滅した事を広めた。
普通なら信じられない大戦果だが、噂が広がるのが距離を考えると異常に早い。
商人などは情報の有無が損得どころが生死にも関わるので、独自の情報網を持っているのだろう、彼らが俺に流した情報を追認してくれた。
それは自由都市に住む商人も同じだった。
俺の商船団を襲った連中こそ、俺と聖堂騎士団の勝敗を一番気にしたのだろう。
彼らは詫びる事もなく、拿捕していた俺の商船団を解放した。
だが、特産品の酒や食品は食い散らかした後だった。
それなのに、食い散らかした事も拿捕した事も一切詫びなかった。
だから兵を掻き集めて自由都市殲滅の準備をしていたのだ。
最初はベリアル教団領の自由都市を襲う事はない、と高を括っていたのだろうアザエル教団の狂信者も、俺の本気を悟って慌てふためいた。
急いで金を持って詫びに来たのだが、許せば同じ事に繰り返しになる。
「同じ狂信者に領地を攻めさせて、その隙に船を襲うような卑怯下劣な背教徒を許す事は、神に対する背信である。
俺はお前達のような背教徒になる気はない。
お前達が信じる神が、他の領地で平和に暮らしている民を殺して富と土地を奪えと神託を下したというのか。
ずっと利益を与えてくれていた取引相手を襲い、積み荷を奪えと神が神託を下したというのか。
お前達こそ神の御名を騙り、神を貶めている悪魔の使徒だ。
神も人もお前達悪魔の使徒を絶対に許さない。
俺が神に代わって神罰を下し、家族ともども八つ裂きにしてくれる」
俺は自由都市の使者を殺しはしなかったが、鼻を削ぎ耳と全ての指を斬り落として追い返した。
殺さなかった理由は、殺してからこちらの使者を送ったら、使者が殺されるかもしれないからだ。
俺に背教徒で悪魔の使徒だと断じられた自由都市の連中は恐怖した。
生き残るために自由都市にある金を掻き集めて、その金を持ってベリアル教団の大神殿に助けを求めた。
ベリアル教団は予定通りだとほくそ笑んでいたのかもしれない。
聖堂騎士団八千兵を動員して、俺と自由都市の和平を斡旋すると言ってきた。
ベリアル教団の威信と、皇国貴族軍よりも装備が充実した聖堂騎士団の兵力をもってすれば、俺を抑え込めると思っていたのだろう。
だが俺は、その時にはもうひかない覚悟を決めていた。
俺が決意できたのは、率いた戦闘侍女や嬢子軍に、ベリアル教団に借金して全てを奪われ、売春婦をさせられていた者が多かったからかもしれない。
若年兵の中にも、美少年趣味のベリアル教団神官に身体を貪られた者が多かったからかもしれない。
ほとんどの者がベリアル教団聖堂騎士団を皆殺しにする事に賛成してくれたのだ。
俺は今回も睡眠魔術で全員を眠らせて、配下の兵に止めを刺させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます