第70話:敵兵二十万

 皇紀2223年・王歴227年・早春・アザエル教団支配地方との領境要塞群


 俺はカンリフ公爵との交渉は爺様に任せて、アザエル教団の狂信者共を皆殺しにすべく、魔力で身体強化して全力疾走した。

 途中何処の所属か分からない刺客が、思い出すのも面倒なくらい多くの場所で待ち伏せしていたが、一撃でぶち殺してやった。

 普段の俺なら、戦力や労働力になる人材は極力殺さないようにするのだが、一万の味方が必死で二十万の敵を押しとどめていては、敵の命に配慮などできない。

 ましてその敵が暗殺を生業とする奴なら、良心も咎めない。


 俺はものの一時間ほどで、ろくに整備されていない百二十キロの道を駆け抜けたが、普通では考えられない早さだ。

 魔力のない雑兵に完全武装させて行軍させたとしたら、普通四日はかかる。

 武装を現地で受け取る形にして強行軍させたとしての、二日半はかかる。

 それくらい非常識な速さだが、俺が魔力消費量を無視して身体強化すれば、不可能も可能になるのだ。


「俺が来た以上もう何の心配もいらぬ。

 敵は全員魔術で眠らせて無力にする。

 他教団の信徒を背教徒と罵り、奪い犯し殺すようなアザエル教団に情けは無用。

 眠っている間に殺せ。

 ただし、持っている物や着ている物に罪はない。

 それぞれの戦利品にする事を許すが、俺達は略奪者ではない。

 味方同士で争うことなく、指揮官の命令に従って、順番に止めを刺せ。

 それと、戦利品を許すのはこの場だけだ。

 村々に対しては一切の略奪を禁じる。

 もちろん女を犯す事も人を攫う事も許さん。

 俺の目を盗めるとは思うなよ、俺に命令に背いて略奪や強姦を行った者は、その場で身体中から虫が湧いて死ぬと思え」


「「「「「はい」」」」」


 俺の本気の怒りと命令を受けて、最初は思いがけない戦利品を約束されて浮かれていた将兵が、一気に地獄を覗いたような表情になった。

 特に古参指揮官連中は、不要な者を排除するために罠かもしれないと疑っている。

 新参の指揮官連中は、自分達の性根を確かめて、エレンバラ家に相応しくない者を排除する試験かもしれないと疑っている。

 平民兵に至っては、本当に戦利品を獲ていいのか不安に思っている。

 まずは俺の力を見せつけて、絶対に敵わないと思わせるのが先だ。


「この世にあまねく存在する精霊達よ、俺の目となり耳となり全てを伝えよ。

 そして俺の敵となるモノに深い眠りを与えよ」


 俺は全く必要もない呪文を唱えて、それも味方全員に伝わるように拡声魔術まで使って、全ての現象を精霊の力で俺が見聞きできると思わせた。

 俺の嘘呪文通り、要塞群を攻撃していたアザエル教団の狂信者二十万が倒れた。

 自分の身体を護る事もできず、勢いよく自分の武器で傷ついている者もいる。

 見渡す限り一面倒れ伏した狂信者の床ができている。


「訓練通り、部隊順に止めを刺せ、愚図愚図するな」

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