第65話:カンリフ公爵家との開戦

皇紀2223年・王歴227年・早春・ロスリン城

 

 俺は満十四歳、当年とって十五歳になったが、今年は波乱の幕開けとなった


「大変でございます、カンリフ公爵が軍勢を整えております」


 首都と商都に拠点を設けている影衆から急報が届けられた。

 カンリフ公爵家は皇帝陛下からの仲裁を受けて、ずっと戦い続けていたフィッツジェラルド王国宰相家と和解した。

 皇帝陛下に仲裁を依頼したのは、バルフォア地方を完全に奪われ、ヘプバーン地方も半ばまで奪われたフィッツジェラルド王国宰相家の方だった。

 そんなフィッツジェラルド王国宰相家が頼ったのは、リンスター選帝侯だった。


 カンリフ公爵の三弟の義父でもあるリンスター選帝侯を頼らなければいけないくらい、フィッツジェラルド王国宰相家は追い込まれていた。

 俺やカンリフ公爵との関係をしくじり、皇帝陛下に嫌われたドニゴール選帝侯はあてにできない。

 アバコーン選帝侯家はヴィンセント子爵家の寄親で、ヴィンセント子爵家の血を受け継ぐミア皇女を正室に迎える事で、俺の支援を得たがっている。

 ハミルトン選帝侯家はカンリフ公爵に媚び諂っている。


 他に頼る相手のいないフィッツジェラルド王国宰相家は、リンスター選帝侯を頼って不利な仲裁案を受け入れた。

 バルフォア地方とヘプバーン地方の半分を割譲する事で生き延びた。

 だがカンリフ公爵はこれで動きを止めなかった。

 実質降伏させたフィッツジェラルド宰相家の主力だった、ライソート騎士団を傭兵として利用したのだ。


 影衆の集めた情報によれば、ライソート騎士団は影衆に近かった。

 魔力を高めるためなら、地位に関係ない婚姻を積極的に行っていた。

 同時にガデルエル教団との関係も濃密だった。

 ライソート騎士団には、多くのガデルエル教団員がいるのだ。

 ヘプバーン地方を中心に領民三十万人の王国貴族に匹敵する戦力、一万の聖堂騎士団を動員できるガデルエル教団の影響がとても強いのだ。

 いや、ガデルエル教団の信徒だけでなく、アザエル教団の信徒も同じくらい数多くいるのだ。


 カンリフ公爵は、四万の軍勢を俺の本拠地プランケット地方と山一つ隔てた場所に集結さけて、何時でも攻め込めるぞと言う体制を作った。

 同時に教団以外で唯一プランケット地方で俺と敵対している、アフリマン影衆の本拠地にライソート騎士団を送り込んで、プランケット地方に攻め込む態度を見せた。

 ライソート騎士団が送り込んだのが魔力に優れた三千兵。

 俺に恨みを持つアフリマン影衆も、魔力に優れた三千兵を動員したのだ。


 数は合計六千兵しかいないが、絶対に油断できない相手だった。

 俺は大叔父に四万の兵力と多くの魔導書を与えて、カンリフ公爵の主力軍と山を隔てる場所に野戦陣地を築いてもらった。

 俺自身は一万の兵力を率いてアフリマン影衆とライソート騎士団に対処しようとしたのだが、彼らは俺を本拠地に引きずり込むように後退したのだ。

 カンリフ公爵軍も山を越えてプランケット地方に攻め込もうとはしなかった。

 食糧生産力に余裕があるから、持久戦は望むところだった。


「侯爵閣下、アザエル教団が動きました。

 四地方の信徒を総動員して、二十万の聖堂騎士団と称して攻め込んできました」


 二十万だと、アザエル教団め、老若男女問わず信徒を動員しやがったな。

 春の種蒔きができなくても、俺の育て上げた三つの港を奪えば、それ以上の富が手に入ると信徒を唆しやがったな。

 いいだろう、決着をつけてやろうじゃないか、もう容赦しないからな。

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