第61話:百万人領主
皇紀2222年・王歴226年・晩夏・ロスリン城
「エレンバラ侯爵閣下の御入室」
式部官の声とともに一族一門家臣衆の待つ謁見の間に入る。
一気に百万人の領民を治める領主となった我が家には、もうこの城は狭すぎる。
一番広い部屋を急遽謁見の間にしたが、元が倉庫だったので威厳もへったくれもないのだが、今回はしかたがない。
こんなに早くエクセター侯爵家とトリムレストン子爵家の両方を併合して、両家の家臣の大半を臣従させられるとは思っていなかったのだ。
いや、そうなる可能性を全く考えてなかった訳ではないが、エクセター侯爵家とトリムレストン子爵家があれほど愚かな対応をする可能性は低いと思っていたのだ。
「エレンバラ侯爵夫人の御入室」
式部官の次の言葉とともに、イザベラが静々と入室する。
本当は手をつないで一緒に入室したかったのだが、爺様にも母上にも、いや、全家臣に反対されてしまったので、仕方なく断念した。
俺の基準では、夫婦仲の良さをアピールする方が、家内が安定すると思うのだが、この世界でははしたない事らしい、解せぬ。
まあ、そんな常識はいずれ俺の手で変えていくとして、今の状況だ。
トリムレストン城を占領した俺達は、十分な休養を取って侵攻を再開した。
疲弊の極みだった家臣領民を根こそぎ動員した両家、エクセター侯爵軍一万三千兵とトリムレストン子爵軍一万三千兵だったが、俺が近づく頃には霧散していた。
俺が侵攻した時の、トリムレストン子爵家守備役騎士達の反応と同じだった。
下手に抵抗したら、俺に仕える事ができなくなると考えたようだ。
ようやく安心して仕えられる盟主が現れたと思ってくれたのだろう。
それでも、ごくわずかだが、主家に忠義を尽くそうとする騎士家や兵士はいた。
エクセター侯爵軍の中に千五百兵、トリムレストン子爵軍の中に千兵だった。
そんな忠義の騎士や兵士を殺す気はないので、睡眠魔術一発で眠らせた。
彼らが眠りから覚めた時には、降伏臣従した者達との主従契約は終わっていた。
数多くの教団がプランケット地方に持つ直轄領や自由都市以外では、ジェイデンが逃げ込んだアフリマン影衆の領地だけが俺に臣従しなかった。
「俺も元は弱小男爵家の出身だ、御前達の気持ちはよく分かっている。
だから俺はここで御前達に誓おう、よき盟主になると。
無理な兵役はかけないし、理不尽に騎士家の権限を奪ったりはしない。
こちらから無理に他の地方に攻め込んだり、王家や宰相家の後継争いに介入したりして、御前達に負担をかけたりもしない。
だが、敵に攻め込まれた時には、命懸けで戦ってもらう、いいな」
「「「「「おう」」」」」
どうやら新たに臣従した騎士達も、俺の誓いの言葉に安心してくれたようだ。
騎士達に誓ったように、余計な争いに介入する気はない。
そんな事をしなくても、敵の方からやって来てくれる。
俺の誘いで戦力を分散する事になったゴーマンストン子爵家が滅んだ。
四つの地方を支配下に置いたアザエル教団は、豊かな我が領地を狙って必ず攻め込んで来るだろう。
その状況を見て、いや、プランケット地方をほぼ制圧した我が家を警戒して、カンリフ公爵家が攻め込んで来る可能性もある。
カンリフ公爵が、父親を裏切って憤死させたアザエル教団と手を組むとは思えないが、生き残るためには離合集散や呉越同舟が当たり前で、血で血を洗う戦争を繰り返しているこの世界では、何があっても不思議ではない。
カンリフ公爵に備えるには、プランケット地方を首都方面からの侵攻から守るための堅城と、何時でも首都方面に侵攻できる攻撃拠点が必要だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます