第59話:内紛

皇紀2222年・王歴226年・晩春から晩夏・ロスリン城と港町


「大変でございます、侯爵閣下、エクセター侯爵家で内紛が起こりました」


 アイザック配下の影衆が報告のために駆けこんできた。

 アイザックをダンボイン男爵に叙勲した事で、影衆の立場が著しく高くなった。

 世の中の殆ど全ての人間が、イザベラをアイザックの実娘だと思っている。

 ほぼ間違いなくアイザックは次期エレンバラ侯爵の外戚になるのだ。

 よほど反骨心が強い人間でなければ、反抗的な態度を表にだしたりしない。

 だから、重要な情報を届ける影衆の邪魔をする者もいなくなった。


「何事が起った」


 俺の代わりにアイザックが影衆に確認する。

 俺の正式な重臣となったアイザックだからこそ、自分と影衆の言動にはとても気をつけていて、影衆が俺に直答する事を許さない。

 俺がよほど強く要求しない限りは、間に自分を挟んで情報を伝える。

 俺もアイザックと影衆の立場が悪くならないように、その言動を認めている。


「はっ、報告させていただきます。

 エクセター侯爵家の長男ジェイデンが、父のエクセター侯爵と弟のイライジャ、人望のある重臣ヴェイン騎士を討ち果たしました」


 ついにやりやがったか、やらせるように流言飛語を広めたのは俺だが、それに簡単に乗って血の繋がった父親と弟を殺すとは、最低最悪の性格だな。

 それに、流言飛語を広めていたのは俺だけではない。

 エクセター侯爵家と血で血を洗う戦いを繰り広げている、トリムレストン子爵家もしきりに流言飛語を広めていたし、家臣の調略も行っていた。

 これで一気にプランケット地方の勢力図が書き換わるぞ。


「エクセター城はどうなっている」


 俺は目で強くアイザックを制して自分で質問した。

 これほど重要な内容は間に人を挟んで話す気にならない。


「はっ、殆どの家臣がジェイデンを忌み嫌い、エクセター城を退去しました。

 私は情報をつかんで直ぐに参りましたので、以後の事は続報を御待ちください」


 一緒躊躇った影衆だが、俺の本気を感じたのか直ぐに話しだした。

 愚かな譜代が文句を言うとしているのが目の端に映ったので、本気の殺意を込めた視線を向けて黙らせた。

 次の戦で敵の矢を受けた風に装って殺してやろうか。


「分かった、よく知らせてくれた、この者に飲み物と食事を与えて休ませてやれ」


「はっ」


 最初の影衆の言った通り、状況が動くたびに続報が届けられた。

 父親を殺されたヴェイン騎士家の嫡男が報復を宣言して討伐の軍を募った。

 大半の騎士がヴェイン騎士家に同情し、討伐軍に参加する事になった。

 城を護るべき兵がほとんいなくなり、籠城すらできなくなったジェイデンは、自分に近かった重臣と影衆アフリマンの頭領を頼ったが、二人ともジェイデンを持て余しているらしい。


 二人とも愚かとしか言いようがない。

 浅知恵を働かして、ジェイデンを利用してエクセター侯爵家内の権力闘争を有利にしようとしたが、その為に肝心のエクセター侯爵家を滅亡寸前に追い込んでいる。

 大半の同僚からはジェイデン同様に忌み嫌われていて、絶対に許されないだろう。

 ヴェイン騎士家達に時間があれば、二人は一族ごとジェイデンと一緒に滅ぼされ、エクセター侯爵家の血縁から新たな当主が擁立されただろう。


 ★★★★★★


「侯爵閣下、トリムレストン子爵家が、領境にいるエクセター侯爵家の騎士家を裏切らせるのに成功し、全軍を率いてエクセター侯爵領に侵攻しました」


 トリムレストン子爵が俺の罠に嵌ってくれた。

 目先の勝利、利益に眼が眩んで、自分も狙われているのだと言う事を忘れ、周囲への警戒を怠った愚か者だ。

 俺も何時同じことをするかもしれないから、重々注意しなければいけない。

 アイザックには、俺を諫められるようにしておけと命じよう。

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