第47話:嵌め手

皇紀2220年・王歴224年・冬・ゴーマンストン子爵家との領境


 人口が十一万人しかいないキャメロン地方が外征に出せる兵力は、二千八百人が限界なのだが、実際にキャヴェンディッシュ侯爵が投入した兵力は二千だった。

 圧政のために領民の数が減っていた事と、兵糧が準備できなかった事に加えて、配下の騎士達に対する指導力が低かった事が原因だった。

 そんな人数で領境の守備城に籠城した三千兵に勝てるはずがない。

 普通に戦力を計算できる貴族や騎士なら、絶対に侵攻してきたりはしない。


 領地を荒廃させるほどの苛政を行うキャヴェンディッシュ侯爵だって、それくらいはわかる、いや、侯爵が分からなくても配下の騎士の中には分かる者がいる。

 まあ、阿諛追従の奸臣佞臣しかいないかもしれないが、そんな事を当てにして戦略戦術を組み立てる訳にはいかないから、今回も餌を用意した。

 バーリー地方の海の向こうにある大陸から、莫大な価値のある商品を積んだ船がやって来ているという、美味しい噂を流したのだ。


 自らの苛政で領民が逃げ、港に来る商船が激減してしまい、家臣に与える金も無くなってきたキャヴェンディッシュ侯爵は、城ではなく港の船を狙ったのだ。

 準備万端整えた城を落とすには、籠城した兵力の三倍の兵力が必要だが、港に停泊している船を襲い略奪するだけなら、二千兵でも十分だと思ったのだろう。

 まあ、そう思い込むような噂を流したのは俺だ。


 それはフェアファクス地方の騎士達も同じだった。

 ただ、フェアファクス地方は海に面していない内陸地方で、しかも険しい山々の間に点在する盆地に騎士の領地があるのだ。

 だから短期間に兵を集めてバーリー地方に侵攻できる騎士家は限られていた。

 しかもフェアファクス地方の騎士達には決まった主家がいない。


 以前は三大宰相家の一つが旗頭として派遣されていたが、王家と宰相家の継承争いと、カンリフ騎士家の侵攻で旗頭不在になっていた。

 いや、フェアファクス地方の騎士達が、自分達が力をつけるためには旗頭などいらないと、宰相家の代官を追い出していたのだ。

 そんなフェアファクス地方の騎士達が、五千人ほどの兵士を侵攻させてきた。


 参加した騎士家の数と領民数を考えれば、本来動員できる兵力は千人ほどだ。

 だがフェアファクス地方の騎士達は普通なら考えられない五倍の兵士をそろえた。

 兵力を揃えられ理由は、農閑期の農民達に略奪の自由を与えたからだ。

 農民が豊かになったら、少々無理な税金をかけても払う事ができるようになる。

 一度美味しい思いをしたら、二度目からは望んで略奪に同行する。

 そう考えて、フェアファクス地方の騎士達は農閑期の農民を大動員した。


 俺はそうなる事を予測して、軍をスティントン地方との領境に集結させていた。

 しかも、そこそこ有名で戦闘力を誇っているキャメロン地方の水軍を、圧倒的な海軍で粉砕する事ができるようにした後でだ。

 まあ、海軍とは言っても新型の艦艇が完成している訳ではない。

 クレイヴェン伯爵家に仕えていた水軍騎士のうち、信用できる者に睡魔の魔導書を渡して戦力を増強しただけだ。

 

「エレンバラ皇国名誉侯爵家・王国男爵家」

領民八千人兵力二百から、領民二十二万人兵力四万に強大化している。


ノア   :六十五歳・ロスリン城にいる。

オリビア :三十歳・エレンバラ城にいる

ハリー  :十二歳・総指揮官


ローガン:六十歳・大叔父・

トーマス:三十八歳・従叔父・

エマ  :十七歳・再従姉・エジンバラ城にいる

ハーレー:十四歳・再従兄・ハリーに同行

ジャック:四十歳・叔父・父の長弟・祖父の次男・ハリーに同行

フレディ:三十七歳・叔父・父の次弟・祖父の三男・ハリーに同行

オスカー:三十五歳・叔父・父の三弟・祖父の四男・ハリーに同行

アーチー:三十二歳・叔父・父の四弟・祖父の五男・ハリーに同行


「譜代・新規の騎士位を与えられた家臣」

オリヴァー:四十歳・エジンバラ男爵家軍の副将格

ジャクソン:三十八歳・エジンバラ男爵家軍の戦隊指令

フランキー:三十五歳・エジンバラ男爵家軍の戦隊指令

ハーヴィー:三十四歳・エジンバラ男爵家軍の五千人隊長

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