第6話:魔力と生産力

 皇紀2211年・王歴215年・秋・エレンバラ王国男爵領


「爺様、魔力とは不思議なものだな」


 祖父と母から話しを聞けば聞くほど、魔力の事が分からなくなった。

 科学的分析など文系の俺にできるはずもないのだが、つい気になってしまう。

 魔力で植物の成長を早くできる理由が全く分からない。

 植物なら早く成長させられるのに、動物だとできないのは何故なのだ。

 あまりにも不可解で気になって仕方がない。

 本当は色々実験して検証したいのだが、残念ながら今そんな時間はない。


「そんなことは気にするな、魔力など昔からそういうものだ。

 それよりどうする、また狩りをするのか、それとも麦を育てるか」


 祖父が期待に満ちた表情で俺を見ている。

 俺のやった事がよほど規格外で期待以上だったのだろう。

 あの時の祖父と母の驚いた顔は今でも忘れられない。

 あれ以降だ、祖父と母が俺の提案を文句なしで受け入れるようになったのは。

 実際俺もあんなことができるとは思っていなかった。

 ラノベやアニメのアイデアを試してみただけなのだが、できてしまった。


「狩りをしたとしても、それほど魔核が集まるわけではないだろ、爺様。

 魔核は狩るよりも買った方が早いのではないか」


 俺がやったのは、農作物に害を与える魔獣や魔蟲を大量に狩り、その時に得られた魔核を合成した事だ。

 ある程度の強さを持つ魔獣や魔蟲の核は魔石と呼ばれ魔力を蓄えることができる。

 蓄えられる魔力量が多ければ、魔晶石や魔宝石と呼ばれ高値で売買される。

 だが、魔力のない平民でも狩れる魔獣や魔蟲の核は、何かに利用できるほどの魔力を蓄える事ができないのだ。


 だが、何の役にも立たなくても害獣害蟲討伐の証拠にはなるので、領民を慰撫するために討伐依頼をだしていた我が家の城には、数多くの魔核があった。

 それを俺が土団子を作る感じで合成して、拳大の魔宝石を幾つも創り出したのだ。

 その価値は、我が家の年収の数十年分になったのだが、残念ながら売れなかった。

 売れば莫大な金額になるのだが、ロスリン伯爵家の手に渡ってしまったら、我が家を攻め込むときの魔力に使われてしまうからだ。


「そうだな、ほとんど価値のない魔核なら安く買えるだろう。

 だが、我が家が豊かだと思われる訳にはいかぬからな。

 我が家の代わりに産物の売買をしてくれる武装商人が必要だ。

 他人は信用できないから、信用できる者を武装商人にしなければならないが、残念ながら我が家には人がおらん」

 

 祖父の言う通りだ、我が家には人がいない。

 領民八千人程度の男爵家だと仕方がないのだが、叔父達が家を出てしまっている。

 亡命中とはいえ、王家の直臣の座を捨てて武装商人に成れとはいえ言えない。

 それに、叔父とは言え無条件に信じるわけにはいかない。

 俺を殺して男爵の爵位を手に入れたいと思うかもしれないし、王に命じられて俺を殺すしかない状況になるかもしれない。


 金の方はいいんだ、色々とやって稼いだから。

 前世の知識には色々と稼げる方法があるのだが、民を飢えさせるような、食糧を酒や石鹸に加工する方法は良心が咎めてやれなかった。

 だが、無から食料を作る椎茸の人工栽培と、食用にできない松脂などから石鹼を作ることはできたので、屑魔核を大量に買うくらいの余裕はある。

 養蚕は始めたばかりだから、まだ収入には繋がっていないが、国王に献上された綿花の種を分けてもらったから、来年には多少は金になるだろう。


「いないものはしかたがないな、爺様。

 だったら領民の夫役を使って狩りをしよう。

 狩った魔物の核は魔晶石程度にして売ろう。

 魔核に蓄えてあった魔力で稲を育てればいい、米なら高値で売れる。

 魔力を使い切った魔晶石なら、ロスリン伯爵に買われても直ぐに我が家の攻撃には使えない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る