セミ

夏休みの自由研究という事で、友達の兄が通っている高校の裏庭にきた。ここは元々森だった所を整備した場所で、今回のセミの調査にはもってこいの場所だった。


友達とセミの抜け殻や実際にセミを捕まえて資料を集めた。羽化途中のものが居れば最高だったが、さすがに時期が遅かったのか全く見つからなかった。


散々動き回って疲れたので今度は地面に目を向ける。整備されているせいか落ち葉は少なく、良く地面を観察することが出来た。そこかしこに開いている棒でも抜いたような跡がセミが出てきた穴だろう。


セミの産卵にいい場所がここしかないのか、僕たちの1歩分ですら隙間が開いている場所は無かった。この辺りのセミはほとんどがここ生まれなんだろう。そう思わせる程の密集度だった。


「ここだけおかしくね?」


そんな中1箇所だけ穴が全くない所があった。それはちょうど人が寝転がっているくらいの大きさで。


「兄貴に聞いたんだけどさ、この高校で3年くらい前に行方不明者が出てるんだって。」


ここは一度掘り返されたからセミの穴がないんじゃないか。そんな想像が頭をよぎる。


「それで、その人はまだ見つかってないんだって」


その言葉に嫌な想像が加速する。土の中に横たわる誰か。その誰かは羽化のために地上に出るセミのように、助けを求めて地上に手を伸ばす。


暑いはずなのに急に温度が下がったように感じられて思わず腕を摩った。


「もう帰らない?」


嫌な想像をしてしまったのは友達も同じようで思った以上にすんなりと同意してくれて、僕達は逃げるようにその裏庭を後にした。

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