03 宿屋とエルフの少年

 ルルが山を下りると、そこには小さな村があった。


 彼の身なりを見た村人たちは、剣を持っている者が珍しかったので、いろいろとたずねてきた。


「僕は辺境出身の勇者なんです」


 ルルはちゃっかと、そう答えた。


 村長が現れて、彼をもてなしたいと話した。


 小さい村だが、酒場を兼ねた宿屋があるらしい。


「偶然と言いますか、エルフ族の戦士の方もいらっしゃっているのです。弓矢の名手で、アーチャーの称号を持っているんだとか。お年頃はそう、ちょうど勇者さまと同じくらいですよ」


「ふうん、そうなんですね……」


 彼はペロリと、くちびるをなめた。


   *


「僕の名前はラクス。ルルは人間の勇者なんだね」


 ルルは目を奪われた。


 少年の肌は雪のように白く、耳が長く立っていて、淡い青色の髪はきれいに後ろへまとめてある。


 なるほど、これがエルフという種族なんだな。


 彼はそう思った。


 耳たぶの赤いピアス、それよりもさらに、緑色の瞳が輝いている。


 フルネックにノースリーブのシャツ、白いズボンに皮のブーツ、なによりもそれらを引き立てる、引き締まったスタイル。


 ルルはたちどころに、ラクスのとりこになった。


 長椅子のとなりに座って、一緒にテーブルの食事をとりながら、二人は話しはじめた。


「ルル、僕はエルフの族長から、魔王を倒すためにつかわされたんだ」


「魔王?」


「ああ、ここからはるか北に、魔物たちが巣窟にする山脈地帯がある。そこはあらゆる魔族の王である、すなわち魔王が根城にしているんだ。やつはこの世界を征服しようと、動き出したらしい。僕はちょうど、旅の仲間を集めたいと思っていたところなんだ。ルル、どうか僕に、力を貸してくれないだろうか?」


 このようにエルフの少年は申し立てをした。


 ルルは少し考えたフリをして、


「いいよ、ラクス。悪い魔王をやっつけよう。もっともっと、仲間を集めてね」


そう答えた。


「ああ、よかった、ルル。君のような、善徳のある人間に出会えて」


 ラクスは顔をほころばせたが、ルルはと言えば、


「ただし――」


くちびるをとがらせた。


「ラクスが僕の言うことを、なんでも聞いてくれるのなら、ね?」


 黒いまなざしが光った。


「あ……」


 ラクスの瞳が濁っていく。


 たちまちのうちに、彼の頭の中は、ルルでいっぱいになった。


「ラクス、ひとまず今日は、この宿で休ませてもらおう。さあ、部屋に行こうか?」


 ルルがささやいた。


「……うん、そうだね、ルル……」


 ラクスはぼやけた頭で答えた。


「ふふっ、そうこなくっちゃ。エルフってさあ、長生きなんだよね? ラクスは僕と同じくらいの年に見えるけど、本当はけっこうな年齢なの?」


「……ああ、ルル……これでも、400歳なんだ……エルフの中では、まだまだ子どもだけどね……」


 ルルの問いかけにラクスは動かされるように口を開いた。


「ふうん、そうなんだね。じゃあ、僕よりずっと、年上だ。いいね、なんだか」


「……そう、だね、ルル……はは、ははは……」


 こうして二人は、宿の一室の中へと消えていった。

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