第7話 嘘も方便

「ありえねーべ、だって」


「ありえないよ!今、ダメだよー、ほんとに」


「こーんだけのリスクあるのにさ」


「うん、いや、ほんとにほんとに今はダメだよね、今はほんとに」


「だって行くとき東京行かなきゃいけないしさ、空港行かなきゃいけないしさ、飛行機乗んなきゃいけないだろ?いくら日帰りだって言ったってさ」


「うん、ダメだよー、さすがに今は」


「ねー、だからもう嘘ついて」


「うんうん、のがいい、のがいい」


「奥さんが来週手術だからって言ってwふははははは」


「あはははは」


「それぐらい言わなきゃムリだからさ。自分の都合だけだからさ」


「うん。え、そしたらしょうがないって?」


「うん、しょうがないでしょ、だって。そこはうまくストーリー作ってるから大丈夫。まぁ、毎回伏線敷いてるから」


「なになに、伏線って?」


「え?」


「何を敷いてるって?」


「伏線。伏線ってのはまぁ、どうせこういう時期になってまたわけのわかんないこと始まるんだろうなって思ってたからさ」


「わけのわかんない(笑)」


「んー、そうだよ。だからうちの奥さんを病気にしてあるから」


「もうね、最初からね(笑)」


「物語を作ってあるわけよ、完璧な。前々から作ってあるの」


「そういうことね(笑)」


「で、ちょこちょこ小出しにしてるわけよ」


「ちょっと具合悪いよって?」


「うん、結構引っ張ってるんだよ、このストーリーはね。元をただせば長いんだよ。子宮筋腫から始まって、それが子宮の入り口の癌になって、その癌が転移して、それを手術しなきゃいけない」


「すごい、ホントっぽい」


「いや、ほんとだよ。完璧なストーリーだよ」


「ちょっと(笑)」


「それぐらいやんなきゃダメってことなんだよ。自分の都合だけでしか考えない人だから。ただそれでもあれだから、ね?」


「え?」


「関係ないって感じだからね。自分以外はどうでもいいんだもん」


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