第29話消えたノーチェス首都
アエリアの魔法で、タラントやランスロット、トーマスの傷は癒されていた
マリアが後で聞いたところによると、アエリアの聖剣顕現は他の、例えば仲間の聖剣の模倣(コピー)にあるという
そして其れを十全以上に使えるのがアエリアの聖剣なのだとか
過去の仲間と言われても、誰だっていう話だし
というか詳しくは聞いていないけど、それってランス兄さんがやられた相手でも余裕で勝てたのではと思ったがそれは言わないでおく
あの後、マチルダ三人組は怪我も治り、無事に帰った
タラントは新しい目標が出来たと修行に励むらしい。マリアから見ても、彼はかなりの技量を持っていた
どうやらあそこにいたランス兄さんと一緒に修行していたという話。そりゃぁ強くなるわね
トーマスはあの領域は無理だからと諦めるのだそうだ
とはいうものの、本来の魔法は大攻撃魔法を得意とするらしく、あそこでは使いようが無かったというので彼も大概な実力の持ち主だ
ランス兄さんは…アエリア様に抱きしめられて固まっていたので引きはがしたらそのまま逃げるようにどこかに行ってしまった
追いかけようと思ったけどめちゃくちゃ速くて追いつくどころか気が付いたら豆粒みたいになってた
ついでにアエリア様も固まっていたけど、そのあとは霊獣を呼び出してすごい勢いで屋敷まで文字通り跳ぶように帰った
残された心配毎があるといえば、あのハイル・イグニスである
ギィル・ガランドルの首を持って消えてしまった
彼はどういう気持ちであの戦いを見ていたのだろうと思った
そして、ギィルが殺された瞬間に動き出していた
全員が意表を突かれた形になり、そのまま簡単に逃げられてしまったけど
簡単でもないか、転移されたからね。
転移のできる魔道具は希少で、高価だからおいそれと持っているものでは無いし、転移先も固定されている
悔しいのは、私があの時もしも剣を持っていたとしてもあそこにいた人間には敵わなかっただろう
それはタラントを含め、ハイル、ギィル、ランス兄さん、アエリア様に
私はそれなりに強いと思っていた。なのに敵から見れば人質になるという…
弱者だった
だから、今日からまた強くなるために頑張ろうと思う
今までよりももっと、強くなるために…
私は私を許さない。
◇
そして屋敷に帰ってすぐ、たった今である
別行動を取っていたマトラとラライラが戻ってきたのは
二人はボロボロになっており、魔力も枯渇寸前だった
「お前たち、何があった!?」
珍しくアエリア様が取り乱していた
ボロボロに、ドロドロになっている彼女らの服装
そして明らかな魔力枯渇状態
「ああ、ご依頼の件、それは、問題なく…あ、本、が少し足りませんでした」
マトラが息も切れ切れに言った
「そんなことはいい、マリア、ジンを呼んでくれ。彼女らを休ませる。ああ、メアリは体をふくためのお湯と布を!着替えもたのむ」
「はい!」
その場にいた二人に指示を出す
穏やかな昼下がりだった屋敷が急に慌ただしくなる
どうやらマトラは何本も骨折もしていたらしく、かなりのダメージを受けていた
彼女らが寝泊まりしている部屋にアエリアが抱き抱える様に連れて入るとベットに寝かせて服を脱がせる
ラライラは比較的軽傷だが、ここまでマトラを背負って不眠不休で飛んできたらしくかなり披露している
「こんな、絞り出す様に魔力を使って来るとはな…」
メアリは丁寧にマトラの体を拭いてゆく
「ホントですね……彼女、かなりの魔力量だと思って居たのに……どんな魔法を使ったのか」
マリアはラライラの体を拭いている
彼女も部屋まで来ると、ぱたりと倒れてしまった
「大魔法を使った訳ではなさそうだがな…それにこれは賢者の石だ。もう力は無いがな」
「賢者の石?」
アエリアの手元には一つの結晶が握られていた
「ほら、あの男も使っていただろう?ハイルとかいう。使えば通常出ないような大きな力が出せる。魔法だと、3ランクは上の威力になったりな」
「そんな凄い物なんですか?」
「ああ、しかし引き出す力の量によってはこれみたいに力を失うし、恐らくはその反動も大きくなる。体と頭に負荷が掛かるんだ」
「なるほど…それでマトラはこんな状態に」
とりあえずは、二人が落ち着いてから話を聞こうと言うことになった。
アエリア様が治癒をして、それでも二人が目を覚ましたのは三日も後の事だった
◇
「また、この風景……」
窓からは優しい風か吹き込んできている
ベットから身を起こすと、隣のベットにはラライラが寝ていた
無事に帰ってきたと言う実感が湧いてくる
「起きたか」
「あ、アエリア様」
「もう体は大丈夫か?」
優しい笑顔をマトラに向ける
少し恥ずかしそうにして、マトラは言った
「はい、ありがとうございます」
「それで何があった?」
アエリアは真剣な顔をして、マトラから事の経緯を聞いた
「そんな事になっていたとはな…」
「ええ、帰る途中に思い出したんですが、あの魔法……転移系魔法の地獄の門(アビスゲート)ではないかなと」
しかしアエリアにはその魔法が何かわからない
「私も文献でしか見たことは無いんですけど、150年前の戦争で使われた魔法で、聖石を触媒としてその聖石が張っている結界が、その中まるごと転移させてしまう魔法じゃないのかな、と」
「150年前か……しかし図書館の資料にはそのようなものは無かったな……」
「それは、この魔法が禁呪だからですね。そもそもからして、聖石の魔力を使いきります。それに、転移先がバラバラらしいんですよ」
「バラバラ?」
例えば、水の中……山の中、地面の中……
そう言った場所に転移した場合、転移した人間の殆どは耐えれずに命を落とすだろう
今回の様に、街単位でやられた日には死者が膨大な事になる
運良く地表に転移したとしても、転移と同時に聖石まで失うのだから、街の守りは無くなってしまう…
故に、禁呪とされたという
当時の魔法開発者と、利用者は全員殺されるという念の入れようだったらしい
マトラの師匠というのが、そういう転移魔法の研究者でもあったらしく、偶然古い資料にそれが乗っていたという
「魔法の術式とか、そういうのはなかったんですけどね。観測された状況と、その危険性は書き残してあったんです」
「なるほど…それを何者かが復活させた可能性か…」
「あ、師匠ではないですよ。あの人、研究者だけど魔法はからっきしなんで」
マトラはそう言って笑うが
「そうか、心配だな」
師匠が、という意味である
「はい。さすがに…まだ恩は返せてないので…」
「とりあえず生きている方へかけよう。そしてどこかには居るのだから探し続ければいい。それに首都そのものが消えたのだ、とんでもない人数だ、どこかしらに生き残りがいるだろうし、その痕跡もすぐに見つかるかもしれんからな」
確かにそうだと、マトラは思った。
希望がわずかにでもあるのだ、それにかけない手はない
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