第20話動き出すアエリア
もう十分休んだとは、アエリアが言った
宣戦布告からの停戦があって数ヶ月後の事である
相変わらずマトラとラライラはそのまま居るし、マリアもやってきて剣の修行をしている
ほのぼのとした日常であったと思う
さて、シャル家の離の屋敷には各王国で配布されている新聞のようなものやらが大量に届けられていた
「情報収集も便利になったものだなぁ。こうやって離れているのに色々と識ることが出来る」
「でもこれ、王宮側発行のものと、民が発行しているものと二種ありますよね?両方御覧になられているのですか?貴族なら王宮側のものだけでいいと思うんですけど」
「貴族なら、ね。私は貴族のようなものだから、両方読むのさ」
平和な世が続いた結果だろうとアエリアは思っている
市民が発行するものなどが許されているのだから。それにはどこの貴族がどこの誰と結婚したとか離縁したとか、また今の季節は何が旨い、そしてどこの店が人気があるなど様々な事が書いてあった
王宮側のはシンプルに、行事のことが書いてある、誰が出席していて、どうだったのか程度である
これらはまったくもって違うものなのだが、時期を合わせて読むとあることが見えてくるのだ
「まぁこれであらかたの国のものは読んだな…やはりノーチェスはサウセスの聖石狙いで戦争を仕掛けていたのだろうと予測はできるし、ウェスコー公国の後押しがあったとも良くわかる」
それらはトップシークレットであるはずの事で、かなり厳重に秘匿されていた話にマトラは驚く
「‥‥」
「その沈黙は答えだよ、マトラ」
「その、あの」
「いい加減諦めたまえ、私が動くという事はそういう事だよ。かといって万能ではないのだから期待されてもこまるがね」
情報網が発達していると言う事は、それだけ国としても捨て置けない
それらを利用して様々な諜報戦を仕掛けていると言う事である
国に帰らずして情報を送るにはもってこいなのだから、それを読み取ればいい
(しかし大戦末期の頃からの隠語がそのままとは、不思議な感じだな)
そもそも図書館にあった本からしてもそれが読み取れたと言うのも大きい
だからこそ、各地の新聞などを集めたのだから
少しだけアエリアは考えて、テーブルに地図を広げる
それは各国がおぼろげに記載された大陸地図だった
「で、マトラ。前にドワーフの協力は得られなかったと言っていたね?そのドワーフたちはこの辺に住んでいたでいいかい?」
アエリアが指さしていたのはノーチェスとウェスコーの境にある山だった
「ええと、はい。そのはずです」
「なるほどね。まぁ彼らの作る武具は強力だ…しかし、もう流通には乗っていないだろう?」
「ええ、そうです。作ることはできないとの一点張りで…」
「だろうね。彼らは盟約により武具は作れない。作るときは大陸、国を覆う結界が無くなるときだ」
そして、その結界は崩れかけているーそうアエリアは続けた
この大陸で戦争が起こるとき、それは決まっていくつかの要因が重なっている時だ。
アエリアは図書館で得た情報を元に仮説を立てているその一つにマトラとラライラが揃っている事があり、また結界がこの時期に緩むことも重なっていた
結界というのは他国からの侵入、流入を防ぐものである
戦争自体が平原などで行われているのがいい例だ
わざわざ宣戦布告し、呼び出して戦うわけである
そんなルール、無視をして攻め込んでしまえばいいのに
それができないための聖石による結界。まぁ抜け道はいろいろとあるのだが、その抜け道は現代に伝わっていないのだろうとアエリアは思っている
マトラ達ノーチェスがやろうとしていた作戦も抜け道と言えなくもないが、もっとスマートな方法があったりする
「まぁいいだろう。主だってはアリエッタの遺産の回収を先にしても十分に間に合う。というか、それが目的でもあるか…」
二人には伝えなかったが聖石さえも遺産であったりするが、それは言う必要がないだろうと思った
「アエリア様、遺産とは一体?」
「その名の通り、遺産さ。強力な魔道具などと思ってくれ」
「魔道具ですか」
「とりあえず手に入れたいのは破軍の腕輪かな。まあ手に入れてのお楽しみだ。それと、手に入れるにはドワーフの協力は不可欠でな…その説得材料を取りに行かねばならぬまいて」
「破軍の腕輪、ですか?聞いたことは無いですね」
「呼び名が昔と同じとは限らんだろ?まあ、手早く行こう。あまり時間をかけるとノーチェスが再び動きかねんからな」
こんな感じで、アエリアが何かを始めるための情報収集、考察などにマトラは立ち会っていた
おいては国の為になるとこころでは思っているからである
何度か国に飛ばした手紙の中にはそれが書いてあるので、今はノーチェスは大人しくなっていた
そして、遂にアエリアが動き出した
マトラとラライラは交渉材料として必要になると言われ、こっそりとノーチェスに戻る事になった
なんでも魔銀のインゴットが必要になるとの事で、それを取りに行く
変わってアエリアとマリアはアエリアの好きな叔父さん……そう、南で農作してる変わり者貴族を尋ねる事にしたのである
アエリアは先立って、手紙を出している
行先はミオマ領のツィーグ伯爵だ
アエリアの叔父であり、貴族なのに畑仕事が好きという変わり者である
それ故に、領民からの信頼は厚かったりする
さらにはサウセスの国としてもそこが食料庫のような役割をしている為、彼の発言権もかなりのものだ
しかしながら、ツィーグ本人は善人であったとしてもその周りまで全員が善人で固められているとは限らない
その街に住む、貴族たちがそうだ
ここは税金も安く、住みやすい
そのとある貴族の娘のマチルダがそうだった
場所は変わり、マチルダの屋敷のにある客間に貴族の二人は居た
「聞きました?あの、ブタさんがここに来るそうよ?」
にこやかに笑いながら、マチルダは言った
どこに行く訳でもないのに、やたら宝石が散りばめられた真っ赤なドレスを着ている
「ブタさん?」
「覚えてないかしら、もう8年くらい前に会ったでしょう?地位ばかり高い、無能なブタ娘さん」
「ああ…いましたね…」
そこにはもう一人、貴族の嫡子が居た。名前はトーマスと言う
彼は身長が高いが、その体はひょろひょろとしていて、毎日髪型に一時間は掛けている
「で、そのブタさんが何しに来るんですかね」
「さあ、なんでもツィーグ様の所に用事で来るとかでその日に簡単なパーティをやるそうよ」
「ああ、ツィーグ様ってあの娘を何故か気に入ってましたもんね。あの娘の容姿は最低でしたが、それと引き換え、確か妹のエミーシュ様はとてもお綺麗だったと記憶しています」
「はぁ、あんな汚い小娘の事なんていいのよ!ライ様は私が目をかけていたというのに、あの小娘!家の力で奪っていくなんて…」
しまった、と、トーマスは思った
ここ最近はその話題を出していなかったのだが、それこそ8年前にエミーシュが婚約した時はどこで覚えてくるのかとんでもない言葉で罵っていたのである
それからと言うもの、この話題を思い出す度に荒れるのだから堪らない
どうやって話題を逸らそうかと思っていたら
ガチャリとドアが空いて
「ああ。疲れたよ…」
小柄な男が一人、入ってきた
「おう、おつかれタラント。今日もしごかれたのかい?」
「うん、ランスロット様が来てから毎日だよ…本当に早く帰ってくれないかなあ」
「あはは、ガドエス流の門弟になったお前の責任だろ?文句言うなよ」
タラントと呼ばれた男は、男爵家の次男である
トーマスと同じく小さな頃からマチルダにおべっかを使って居たら気に入られて良く遊んでいた
ちなみにガドエス流の門を叩いた理由もマチルダだ
ライとの繋がりを求めたマチルダの為に、タラントは自ら動き門弟となる
お陰で、身長は伸びなかったが剣術はいっぱしの自信がある
そのお陰もあるのだが、マチルダやトーマスの親からも評価され、覚えもいい
トーマスはマチルダと同じ伯爵家だが、長男である為後継ぎとして、育てられた
比較的頭脳派と言えるが、体の細さを気にしていたりはする
ちなみに、フェン流と言う魔法を習熟している
得意属性は火
「ランスロット様もねぇ…いい男性なんだけど、あの人ほんとに女性に興味が無い様でつまらないのよね。確かもう30近い筈なのに」
ちなみにマチルダは17歳、トーマスとタラントも同じである
どうにもこの歳の女性と言うものは男性を恋愛対象として見る節が強いなあと、トーマスは思っている
タラントはそんなマチルダに、恋慕しているものの、家柄の事もあり諦めていたりはするのだが
「ふふ、まああのエミーシュの姉が久々に来るのなら、思い切りからかってあげましょうか。どうせ変わってなどしていないでしょうしね」
陰湿な嫌がらせを考えてはニヤニヤすると言う姿のマチルダを見てトーマスはちょっと怖いなあと思ったのだった
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