52 硯 羽未 様

1 エブリスタ

2 LGBTなどのセクシャルマイノリティ物

3 心の闇からの救済

4 優柔不断

5 登場人物の配分バランス

6 書いたことのないもの

7 心理かな(曖昧)

8 うつろな果実


【あらすじ引用】

今年大学生になった小野田珠雨は、古民家カフェでバイトしながら居候している。カフェの店主、浅見禅一は現実の色恋は不得手だという草食系の男だ。

ある日母がやってきて、珠雨は忘れていた過去を思い出す。子供の頃に恋心を抱いていた女、あざみは、かつて母の夫であった禅一だったのだ。

女の子でありたくない珠雨と、恋愛に臆病になっている禅一との、複雑な関係のラブストーリーです。(全12話)


主な登場人物

小野田 珠雨(おのだ しゅう)…主人公。19歳の女の子(一人称は俺)大学生

浅見 禅一(あざみ ぜんいち)…31歳バツイチ男性 カフェ経営


────レビュー全文


【物語は】

主人公は大学の授業を終え小雨の中、バイト先であり居候先となっているカフェに、徒歩で向かっていた。バスでなら5分の道のりを歩いたせいか、目的地につくころには濡れてしまっていたようである。カフェについた主人公は、店主に挨拶をし、バイトの為に着替えをするのだった。


【世界観・舞台・言葉の説明】

恐らく舞台は現代であり、セクシャルマイノリティがテーマの物語でもある。近代では、”多様性があるのは当然であり、自認の男女の性が体の性別と合っていることが当たり前ではない”ということが、少しづつではあるが認知されてきているように感じる。


**補足【各言葉の意味】(web調べ)

タグにある「セクシャルマイノリティ」とは、

同性愛者、両性愛者、トランスジェンダー、性同一性障害など。

性のあり方が少数派であることを意味している。 性的少数者で、ジェンダーマイノリティやLGBTなどとも言われる。


最近ではLGBTに変わり、LGBTQIAと言われ、さらにLGBTQIAPKの場合のそれぞれの意味。

Q:自分の性別や性的指向を決められない、迷っている状態の人。

A:無性愛者。同性だけでなく異性に対して恋愛感情を抱かない、性的指向が誰にも向いていない。

P:パンセクシュアル。男女の性別にとらわれずすべての性を愛する「無性愛」を意味する。

K:キンキー。他とは違った特殊な性的嗜好を持つとされている。

I:インターセクシャル。

体の状態を指すものであり、現在では”DSDs:体の性のさまざまな発達”

「AIS」や「CAH」,「尿道下裂」・「ターナー症候群」など様々な体の状態があり,「私はAISを持っている」「尿道下裂で生まれた」など,個別の体の状態名で表すことがほとんど。


セクシャルマイノリティは一括りにされることが多いが、それぞれは別のものであり、悩んでいる人もいればそうでない人もいる。カミングアウトする人もいれば、しない人もいる。

それは社会の中で差別を受けることが当たり前だという意識によるものだったり、身体と心が合致していて当たり前と偏見を持っている人が大部分な為だと思われる。恋愛については相手がいることなので自分一人ではどうすることもできないが、生き方については誰もが自分らしく生きられる世の中であるべきだと思う。


【物語の魅力】


とても難しくデリケートなモチーフを扱いながらも、とっつき易いストーリーである。二人の会話の中で主人公の母の生き方も明かされていく。


ここで感じるのは、セクシャルマイノリティの難しさ。自認と性別が違う場合、身体に違和感がなくても一人称に違和感を覚えることがある。どんなに多様性が当たり前の世の中でも、見た目で判断されるということ。それは、なかなか変わらないと思われる。この物語では、いろんなマイノリティの人たちが自分の中に問題を抱えているように思う。


症状にしても心にしてもそれぞれ違う。自分の持っている感覚でマイノリティの人々に接することが、傷つけることでもあること。

例えば身体的に子供を作ることのできない人間に、同じ症状の症例などから可能性を見いだす、それ自体が傷つけることもあるということ。

いろんなことについて考えさせられる物語である。


【登場人物の魅力】

主人公は一人称が”俺”の大学生。性別(身体)は今のところ女性である。

ただこの物語では、見た目=自認ではないし、自認と見た目が合っていても男性機能を果たさないなど難しい面がある。しかしながら、それは当たり前のことでもあるのだ。


人間には、身体の男女で違う部分と、どちらにも存在する部分がある。

そして身体の性と心の性が同じである人もいれば、どちらでもないと感じる人もいるし、どちらであると感じる人もいる。さらに異性に惹かれる人もいれば、同性に惹かれる人もいる。そしてどんな人も愛せる人もいれば、全ての人間に対して恋愛感情を持てない人もいる。誰にも恋愛感情が持てないからと言って、恋愛に興味がないというわけでもない人もいるのだ。そのように、多様性があり、一概にそこに属するからと言って同じ感覚とは限らない。


そういう登場人物たちだからこそ、この物語は複雑な人間関係となっているのではないかと感じる。

恋愛物語というよりは恋愛という一つのテーマの中から、”それぞれの考え方や抱えている悩み、問題、関係性や生き方”が紐解かれていく物語であると感じた。


【物語の見どころ】

もしあなたの身体と心が噛み合っていたならば、世の中には噛み合わない人たちがたくさんいて、それぞれに自分自身と向き合いながら、”自分の人生を自分らしく生きようとしている”ことに気づいて欲しい。


自分の感覚は当たり前ではないし、押し付けるものであってはならない。偏見は、一番人を傷つけるという事だ。


例を挙げるならば、同性愛者の人に”異性を愛することが当たり前”という偏見を向けることは、異性愛者のあなたが明日からは”同性を好きになりなさいと言われる”ことと同様である。

そして心は女性、身体は男性で苦しむ人に”男なら男らしく”という言葉を向けることは、自認も身体も男性の人間に”明日からは女になりなさい”ということと変わらないという事。


それはとても暴力的であり、非人道的である。多様性を理解するという事は、自分が出来ないことを他人に押し付けないことと同様である。自分の当たり前が、他人にとっての当たり前でないという事実を受け止めるという事だと思う。(P27まで読了)


あなたもお手に取られてみませんか?

LGBTQIAPKと一纏めにされている問題が一つ一つ別のものであり、それぞれ悩みも違うのだという事を理解する機会になると思います

。主人公はこの先どう自分自身と向き合うのか。

二人がどんなラストを迎えるのか。

その目で是非確かめてみてくださいね。お奨めです。

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