【完結】18歳未満のファウスト ~転校生に学年トップを奪われたから弱みを握ろうと友達のフリして近付いたらとんでもない修羅場が待っていた~

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前編 ── 三島凪の契約 ──

【前編 / 01】 二人目のファウスト ─── 00



 至近距離、すぐ目の前の瞳が、呆然と見開かれる。開ききった瞳孔がとてもきれいで、俺は笑った。とんでもない充足と、酩酊にも似た多幸感。電流じみたものが背筋をぴりぴりと通り抜け、ぞくっ、とした感覚。

 衝動のまま、目の前の人の両手首を掴んで、そっと押した。呆然としたままのその人は、あまりにも簡単に揺らいで、ゆっくりと重心を失っていった。制服の背中は、されるがままに地についた。

 あっさりと押し倒された彼の上にのしかかって、薄く微笑む。その頬に、ぱたぱたっ、と数滴の雫が落ちた。赤かった。きっと触ったらあたたかいんだろうな、なんてことをぼんやり思った。気持ち良かった。

 皮膚の上で弾かれた赤はぷっくりと盛り上がっている。それがゆっくりと動いて、つるっと耳の方、彼の髪の生え際へと落ちていった。呆然と俺を見上げる頬の上、赤い軌跡が線を描いた。まるで涙の跡みたいだと思って、じいんとした痺れを感じる。

 俺は彼の上に乗り上げたまま、そっとその頬を撫でた。凍りついた表情で固まっている男に向けて、笑いかける。恍惚のまま口を開いた。とても素直な声が出た。



「青春ぜんぶ駄目にして、俺と台無しになろう。なあ、──……」




 



 

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