第22話 過去話②

 ジョンとメアリーの出会い。それは一発のビンタから始まる。当時ジョンには付き合っていた恋人がいた。名前はリーン。マクガイヤー子爵家の令嬢だ。彼女は何というかまあ……自由奔放な女性だった。ジョンと付き合っていたにも関わらず、別の男性とデートしたり、人前でいちゃついたりとやりたい放題するタイプの。


 何故ジョンはそんな相手と付き合っていたのか?

 そう思うだろう。


 それは簡単な理由だった――顔が良かったのだ。それも滅茶苦茶。


 所詮世の中顔。男は美人に掛かればイチコロって訳よ。ああいかんいかん、私情が入ってしまった。兎に角、超美人だった彼女のやりたい放題わがまま放題を、ジョンは我慢し続けてきた。とは言え、何事にも限度がある。ある日限界を迎えた彼は、リーンに別れを告げる。


 それを聞いて焦ったのがリーンだった。彼女からしてみれば、将来の伯爵夫人の席からいきなり転げ落ちたのだから焦らないわけがない。私から見れば当然の帰結なのだが、アホの彼女にはそれが分からなかった様だ。


 伯爵夫人の座が諦めきれなかった彼女は、必死にジョンにとりすがる。だが既に愛想が尽き果てたジョンには相手にされない。それでも諦めず何日も食い下がり続けた身勝手な彼女に、遂にジョンの堪忍袋の緒が切れた。


 ジョンは怒りのまま罵詈雑言を浴びせ。優しかった彼のその変貌に泣きだすリーン。私から見れば彼女の自業自得にしか思えなかったが、その場にたまたま居合わせ、事情をよく知らなかったメアリーには違って見えた。


「人前で女性を泣かせて!貴方はそれでも男なの!」


 この一言と共に、ビンタをバシーンと来たもんだ。いやー、あれは強烈だった。その一件以来、ジョンは彼女にべた惚れ。そして必死で口説き落とし、今に至る分けだ。


 え?私はどうしてたかだって?


 空気でした。ええ、そりゃもう。厄介事に首を突っ込みたくなかったってのもあるけど。女の私が首を突っ込めば、拗れに拗れて刃傷沙汰もあり得るって事で。ジョンに言われて自重していたのだ。


 まあ超能力があるから、不意打ちでも喰らわない限り問題なかったんだけど、人前でホイホイ力を使う訳にもいかないからね。勿論いざという時は、こっそり助けてあげる積もりではあったけど。


 まあ2人の馴れ初めなんだから、この際私がどうしてたとか、そんな事はどうでもいいだろう。その後もリーン関連で色々とあったが、相思相愛になった二人は幸せいっぱいだった。私もメアリーとは仲が良くなり、凄く楽しい充実した日々を過ごしていた。


 そう、あの日までは……

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