第12話 悪役令嬢殺人事件⑤
「これで犯人がハッキリしました」
「分かったのですか!?」
私の言葉に、アップル伯爵が詰め寄って肩を掴む。そして「誰が!?」と叫びながら私の体を激しく揺すってきた。気持ちわ分かるが、少し落ち着いて欲しい。肩めっちゃ痛いし。
「伯爵、落ち着き給え」
静かな。それでいて心に響く重い声。普段の王子からは想像もつかない厚みのある響きに、伯爵はハッとした様に私の肩を手放した。
「も、申し訳ありません王子。興奮してしまって」
「謝るべき相手は、僕では無いと思うけどね」
「え、あ。そ、そうですね。レア・ホームズ嬢、申し訳なかった」
「い、いえ。気にしないでください」
王子が私の側に来て「大丈夫だったかい?」と優しく声をかけてくれる。その対応がスマートかつ男らしく、思わず見惚れてしまいそうになる。こりゃ女性にモテる訳だ。逆にアップル伯爵は減点かな。いくら娘を殺した犯人が分かりそうだからって、か弱い女性の肩を掴んでがくんがくんと揺するのは頂けない。
「そ……それで、犯人は誰なのですか?」
「容疑者の中に犯人は居ませんでした」
「なんですと!?では一体誰が!!」
状況証拠を並べてから犯人を伝えるか、犯人を伝えてから状況証拠を並べるか少し迷う。犯人を伝えてから証拠や根拠を列挙した方が分かり易く、私好みである。だが心の準備も無く犯人を付きつけたら、メンタルの弱そうな伯爵はショックで倒れてしまいそうだ。
「一から話していきますね。まず12人が犯人ではないと思った根拠ですが、12人全員の部屋に毒が残っていたからです」
「ああ、それは僕も奇妙に思っていたんだ。12人の中に犯人がいたなら、何故処理しなかったのかを。今回の天井裏に隠された毒瓶の様に、ね」
小さな小瓶だ。完全に隠滅できなくとも、自分の部屋以外の場所に捨てる事は難しくなかったはず。それなら仮に毒瓶が発見されたとしても、白を切る事は容易かっただろう。にもかかわらず、アリバイの無い12人全員の部屋から毒物は発見されてしまっている。
「屋敷の令嬢が毒殺されたなら、犯人じゃなくても毒を所持している人間はそれを処理をしようとするはずです」
「当然だね。家探しでそんな物が見つかれば、確実に疑われるのだから」
「タイミング的に処分できなかった者もいるかも知れませんが、全員がそうだったとは思えません。つまり、アリバイの無い12人全員の部屋から毒が出てきたという事は、これは逆におかしいという事に他なりません。ですから――」
私は一呼吸置く。特に意味のない只の演出だ。
「私はこう考えたのです。12人全員が、自分の部屋に毒物があった事を知らなかったのではと。つまり何者かによって、部屋に毒を仕込まれていた可能性があるという事です」
犯人含む12人がうっかり者だったと考えるより。毒が自分の部屋にある事を知らず、処分のしようがなかった。そう考えた方が自然だ。まあアリバイの無い人間の中で1人だけ毒物が発見できなかった人物がいた場合、その人が逆に一番怪しくなるから。あえて自分も毒物を所持したままにしたっていう可能性もあるけど、今回は違う。
そもそも誰かに責任を押し付けるだけなら、12本も仕込んでおく必要はない。容疑者が1人2人ならシンプルな捜査で終わる可能性が高いが、多すぎると逆に徹底的に調べられる事になってしまう。今回の様に。実際容疑者が1人なら、私にお鉢が周っては来なかっただろう。
「12人の部屋に毒を仕込んだ人間。それが……犯人だというのですか?」
アップル伯爵の顔色が少し青い。彼もどうやら感づいてきた様だ。使用人とはいえ、伯爵家で貸し与えている部屋にはちゃんと鍵が付いている。そこに忍び込んで毒を仕込める人間は当然限られていた。
「はい。使用人達の行動を把握し」
把握、ないし使用人達をコントロールできたからこそ、アリバイの無い人間の部屋にピンポイントで毒を仕掛けられたのだ。
「事件当夜、アリバイの無かった人物」
アリバイの無い人間は12人以外にも、実はもう一人だけいる。そう、もう一人だけ……
「かつ、マーガレット様の部屋の天井に誰にも気づかれづ仕掛けを施せた人間……」
仕掛けには結構な手間と時間がかかった筈だ。使用人達が他の人間の目がある中、その時間を確保して作業できたとは考え辛かった。つまり、仕掛けを作った人間は部屋を一人で独占できた人物である可能性が極めて高い。
――以上の理由から。
「犯人は――」
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