第10話 悪役令嬢殺人事件③

 翌日、私はある路地裏でひっそりと門を構える店の前に居た。そこは寂れた場所で、人通りは殆どなかった。当然そんな場所に門を構える店など、真面な店な訳はなく。非合法で薬品を売買する店だ。まあ表向きは謎の置物屋を一応装ってはいるが……



 私は毒の痕跡を辿りこの店へとやって来た。追跡は超能力サイコリーディングによる、情報引き出しによるものだ。犯人の情報を直で引き出せるのが一番なのだが、残念ながら私の超能力ではその動きを追跡するだけで精いっぱいだった。


「ふーん、ここが毒の入手経路と言う訳かい」


 私の横には王子が立っている。彼は口元に手をやり、店を繁々と眺めていた。門扉には大量の衛兵が群がり、王子による突撃の合図を今か今かと待ち構えている状態だ。所謂強制捜査。それも王族権限による。こうやって目の当たりにすると、改めて王族の力をまざまざと思い知らされる。


「ええ、間違いありません」


 私は王子にはっきりと答える。何故ここの情報が掴めたのかは、王子抜きの個別の事情聴取で、情報源の秘匿を条件に聞いたと言ってある。勿論真っ赤な出鱈目だが、王子は問題なく信じてくれた。まあ何も出なかった場合、発生する損害賠償等は私に押し付けられる事になる訳だが。超能力で確認していて確定なので、気にする必要は無いだろう。


 兎に角、全ての毒の出所は此処で間違いなかった。

 そう、全ての。


 私の言葉に頷いた王子は合図を出す。その瞬間衛兵達が流れ込み、店内に怒号が響き渡る。透視で中を覗いてみたら、おお捕り物で偉い事に成っていた。やがて全ての店員達が抑え込まれ、衛兵が店中引っ繰り返し出す。


 万一衛兵が見つけられなかった場合は、あたしが偶然を装って発見する積もりだったが、ここ迄徹底されているならその必要は無さそうだ。


 しかしまさかここまで荒っぽいとは……まあ毒売ってる様な奴らだしいっか。


 やがて毒物の数々が衛兵の手によって押収され、下手人たちが縄に繋がれて連れていかれる。全てを見届けた私と王子は、路地裏から護衛付きで出て行き。用意してあった馬車に乗り込んだ。


「これで一歩前進だね」


 王子は楽し気にニコニコしている。笑顔はとても素敵だ。つい見惚れてしまう程に。これで趣向に難が無く、腹黒でなかったなら惚れていたかもしれない。


 本性知ってて良かった。


「ええ、アップル伯爵の為にも、早く犯人は見つけてあげたい所です」


 まあぶっちゃけ、犯人が誰かはもうとっくにわかっていた。

 問題は証拠だ。


 いくら犯人が特定できても、それを超能力以外で証明できなければ意味はない。多少は適当な理由で誤魔化せても、最後はある程度きちんとした証拠や根拠が必要になる。今私はその為に動いているのだ。


 ああ、だる。

 犯人が分かっていても指摘できず、回り道をしなければならないのは本当にだるい。

 もっとこう、超能力がポピュラーな能力になればいいのに。


 まあ嘆いていても仕方ない。一つ一つこなしていくとしよう。差し当たっては売人たちのへの聴衆だ。サクッと口を割ってくれると楽なのだが……そう言う訳にもいかないわよねぇ……


 ああ……本当にだるい。

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