第37話 やっぱり付き合ってる?

「ハンバーグ、上手くとろとろになってるかな?」


「割ってみないとわからないよ」


「そうだね、雛ちゃん食べよう」


 二人して手を合わせて、いただきますと言った後、ハンバーグをお箸で割ってみた。


「え、すごい! 良い感じにできてるよ」


 ハンバーグを割ると、中からとろりと黄身が溢れてきた。白身は固まっていて崩れず、中の黄身を支えている。


 黄身と肉汁が絡み合ってとっても美味しそうだ。


「本当だ。上出来だね、こんなに上手くできると思ってなかったよ」


 雛ちゃんは満足げにスマホで写真を撮影している。わたしも撮影しておいた。


「あとでSNSに上げとこーっと」


 そう呟いて、早速ハンバーグを口にする雛ちゃん。彼女のSNSの投稿は少し前まではマルチ関連の物ばかりだったが、今では該当する投稿はすべて削除されている。


 代わりに友達と遊びに行った、こんな料理を作った、お菓子を作ったという旨の投稿が増えていた。


 健全になってなによりだ。ハンバーグを口に運ぶ。


「んー、美味しい」


「作って良かったね」


「うん、冷凍卵って案外なんにでも使えそうだよね」


「わかる。今までしたことなかったけど、このまま天ぷらにしたり、揚げ物にしても美味しそう」


 出来上がったハンバーグを褒めながら、楽しく食事を進める。その途中、話が変わってわたしの職場での話になった。


「優菜ちゃんの職場ってどんなところなの?」


「どんなところかぁ」


 抽象的な質問だなと思いつつも、率直な感想を答える。


「辛いところかなぁ」


「最初にその感想が出るのは限界過ぎない?」


 食べる手を止めて心配そうにこちらを見てくる雛ちゃんに、「大丈夫だよ」と返す。


「辛い原因になってる人は今年で終わりだから。後半年ちょっと我慢すればそれで終わり。他はそこまで悪くない職場だし。その人と喋らない日は楽だよ」


「……いじめられてるの?」


「いじめっていうか、うーん、難しい人でね。前も言ったけど、理不尽に怒られることが多くて。それが精神的にくる」


「うわぁ、嫌だなぁ。やっぱりお金はできる限り楽に稼いだ方がいいよね」


「……雛ちゃん?」


「冗談冗談! 優菜ちゃん、顔が怖いよ。ボケただけだって」


「雛ちゃんがそれを言うと、冗談に聞こえないよ」


 また何かにハマってしまうのかと思ってびっくりした。


 未だに不安げな面持ちでこちらを見つめている雛ちゃん。


 彼女が冗談を言ったのは、わたしが変なことを口走ったからかもしれない。反省して、笑みを作る。


「本当に大丈夫だよ。少し前まではきついなぁと思ってたけど、今は趣味もできたし、楽しいから」


「趣味?」


「うん、ゲームをするのが好きでね。パピロンって知ってるかな。最近ずっとそれをやってるの」


「あぁ、CMでやってるやつだよね。ぱっぱら~みたいな音楽の」


「そうそう」


 雛ちゃんはゲームをしないはずだ。それでもパピロンを知っているんだから。人気だなぁと実感する。


 ランドドラグーンの話なんて誰にしても首を傾げていた。


「そういえば、優菜ちゃんは高校生の時もゲーム好きだって言ってたね。スマホゲームにハマってたんだっけ」


「そうそう、よく覚えてるね」


「少し記憶に残ってるよ。今でもゲーム好きなんだね」


「うん、やってない時期もあったけど、今はすごくハマってるかな」


 雛ちゃんは室内にきょろきょろと視線を這わせて何かを探している。


「あ、これか」


 彼女の背中の後ろに置かれていたテレビ台の上に、ゲーム機とソフトのケースを置いていた。


 雛ちゃんはソフトのケースを見つめながら呟く。


「パピロンってCMを観てたら、皆でやるゲームみたいだけど、友達とやってるの?」


「一応一人でも遊べるゲームだよ。けど、友達とやってることも多いかな。友達と言っても硲くんとしかしてないけど」


「硲くん……って、あの硲くん?」


「そうこの前一緒に会ったあの硲くん」


 瞳を丸くする雛ちゃん。


「え、やっぱり二人付き合ってる?」


「なんでそうなるの?」


「だって前会った時も二人で来てたし、仲良かったから。しかも二人でゲームって……というか、気になってたの。二人はどういう関係? 高校の時も仲良かったよね。なんだか並々ならぬ関係なような気がするんだけど」


 並々ならぬとはなんだろうか。苦笑してしまった。


「昔からゲーム友達だったの。久しぶりに彼に会ってね、そこからまた一緒にゲームをするようになって」


 そういうと、雛ちゃんは「ひゃー」と黄色い声を上げた。


「素敵だね、それ。どれくらいの頻度でしてるの?」


「どれくらいだろう……二日に一回はしてるかな」


「え、絶対付き合ってるじゃん、なんで隠すの?」


「付き合ってないよ!?」


 雛ちゃんの目が輝いている。慌てて訂正した。


「本当にそういう関係ではないよ? たまたまね、彼が隣に住んでたからまた遊ぶようになっただけで、それまでは連絡を取りすらもしてなかったし」


「なるほどね……隣? 今隣って言った?」


「え、う、うん。そっちの部屋に住んでるよ」


 彼女の背中の後ろ側の壁を指さす。雛ちゃんが目に見えて動揺しているのがわかった。


「え、えぇ……そんなことあるの? 本当にたまたま?」


「たまたまだよ」


「少女漫画か!」

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