『クズの最底辺』と呼ばれたオレは久々にスキル「交渉人」「コソ泥」「観察眼」を使って本気を出す
鹿角 望月
1章
第1話 あまりにも理不尽な追放
「悪いんだがズクシ、キミをリーダーとして、いや、人間としてギルドから追放させてもらう」
オレは突然の宣言に驚きながらも、食後のデザートのパフェを食べる手を止める事は無かった。
「なんで?」
「なんでって•••キミ、自分が今まで何をやってきたか自覚がないのか?」
ギルド「パラダイム」のリーダー、ベックは頭を抱えながら言った。
他のギルドメンバーも真面目な顔をしてオレのことを見ている。
「もう、限界なのです•••」
ベックの隣に座る獣人族のキュリーは泣きそうになるのを必死に堪えながら、消え入りそうな声でつぶやいた。
「正直、初めて会ったあの日から顔を合わせるのも苦痛だったのです•••」
「初めて会った日って、オレが街で迷ってたお前を案内してやった日の事だよな?礼は言われても、恨まれる覚えはねぇぞ?」
キュリーは涙を堪えきれず涙を零した。しかし、取り乱す事も、声も出す事もしない。
ただじっと、涙を流しながらもオレの事を睨みつけている。その目は仲間を見る物ではない。
「•••キュリーからは詳しい話を聞いた。キミがあの日、キュリーにした事も全部だ。それでもキミは悪くないって言えるのか?」
隣に座るベックが睨みながら言った。その声は低く、怒りを必死に抑えている様だった。
「オレが案内ついでに泊まる宿の手配をしてやって、ついでにオレの故郷式の挨拶故郷式の挨拶をしただけだろ?」
オレの発言でベックは我慢が出来なくなったのか、机を全力で叩いた。
音に驚いた周囲の客の一部がこっちを見たがすぐに興味を失った様だった。ここではこの程度の物損は良くあることだ。
机の修理費は後から仕事の報酬から請求をされる。
「あーあ。何すんだよ。パフェが倒れたじゃん」
机は真ん中からへし折れ、オレのパフェは倒れてズボンを汚してしまった。
「次はキミを殴る、これは脅しじゃない。自分の発言に気を付けろ」
さすが『勇者』のスキルを持つベックだ。正義感も高く、迫力もある。
「わかったよ。で、キュリーが言いたいのはそれだけか?」
その瞬間、ベックの拳がオレの顔面に当たっていた。
身体が吹き飛び、壁に大穴が開く。
周りも異常を感じたのか、全員がこっちを見ている。受付ギルドの従業員が集まり始めている。
これ以上暴れるなら何をしてでも止めるつもりなのだろう。
「痛てぇな、何しやがるんだ」
「キミはもうしゃべるな。意思表示は頭を振れ。声を聞くのも不快だ」
顔と壁で打った背中の骨が折れている。それを自覚しながらも、椅子を戻して座る。
周りには他のギルドの奴らが集まり始めていた。ここからの議論は彼らにも聞いてもらえるだろう。
オレがこれだけの怪我を負っても僧侶のサラは動かず、冷たい目でオレを見ている。
「•••傷を治してくれても良いんじゃないか?」
「人じゃないものに貴重な魔力を使いたくない」
「しゃべるなと言った筈だ」
いつの間に抜刀したのか、オレの右脚は椅子ごとベックの剣で貫かれていた。
「•••わかったわかった。もう喋らねーよ。おっとこの返事で刺すのはやめてくれよ?刺す剣もねーだろーけどな」
「テメッ!」
怒るベックを止めたのはサラだった。
「これ以上喋るだけ無駄。それより、辞めさせる話をこれ以上する必要はあるの?」
「•••わかった。で、スグシ。サラの言う通り、キミがもう何も言わずに抜けてくれるならそれでいい」
オレは首を横に振った。
「これ以上異論があるなら、聞こう。喋れ」
「オレは確かにキュリーを傷つけたかもしれねぇ。謝るよ。でも、サラとベックには何もしてないだろ?お前らがオレを追放させたがる意味がわから」
言い終わることもなく、今度はオレの左脚に激痛が走った。
見ればオレの左脚を氷のトゲがズタズタに引き裂いていた。
サラの使う氷魔法だ。
「剣ならまだある。貴方は私の一族の秘宝の『蒼の勾玉』を勝手に盗んで売った。今まで生かしていただけでも感謝して欲しい」
「それは結局戻ってきただろ?あの時は金が必要だったんだよ」
「それはベックが危険を犯してアースドラゴンを倒して、勾玉を買い戻すお金を稼いでくれたおかげ。貴方は私にとって悪でしかない」
「なぁ、ベック、頼むよ。俺たちは同じ村で育った親友じゃ無かったのかよ」
「•••キミが、そのスキルを手にした事は、同情するよ。でも、これ以上一緒にいる事はできない。これでもキミがまだ残るって言うなら、ボクはキミを、ギルドリーダーとして追放させてもらう」
周りのギャラリーはオレの味方では無かった。
「よく今まで我慢したよ」
「なんで今まで我慢出来てたんだ?」
「こいつはもうここで殺した方がいい」
「あそこまでのクズは見たことがねぇ。最高の、いや、最底辺のクズだ」
非情な声が聞こえ、オレはもうダメなんだと悟ってしまった。
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