霊道トンネル

受験戦争が終わり、4月から私は同じ大学に通う仲良し女子3人を連れて心霊スポットに行く事が決まった。

果歩かほ真音まおん心寧ここねの仲良し女子3人と共に、興味本位で付いてきた男子の佑樹ゆうきの計4人を連れて、運転免許取得したての私・りんは車を運転しながら有名な心霊スポット"霊道トンネル"に行く。

"霊道トンネル"は、昔トンネル近くの村で大量虐殺事件が起き、猟奇的殺人鬼がトンネル内で自殺したという噂がある。

"霊道トンネル"に行った人の体験談によると

一. 車で運転中、トンネル内で突如パンクし停止していると、車窓から白い霊達が歩いているのを見た。

二. 一人でトンネルに入ると、突如男の声が聞こえ、入口に戻ろうとしても戻れない。そして出口に行こうとしても距離が長すぎて出られない。

三. カップルでトンネルに入ると、男か女かどちらかが居なくなる。

四. 動画配信者がトンネルに入ると、カメラにノイズが入り、いつの間にか動画配信者が姿を消す。

五. 大勢でトンネルに入ると、白い霊達がトンネル内を歩き、その霊達に手足を掴まれあっちの世界へと連れて行かれる。

などという怪奇現象が起きている。






私達は高校でオカルト部として活動していた。

高校を卒業する前に最後の活動をしようと最恐の心霊スポット"霊道トンネル"を調査する。

「ほ、ほんとに行くの?」

怖がりな果歩は、いつにも増して行くのを躊躇う。

果歩がオカルト部に入部した理由は、怖がりな自分を変えたいからだという。

「果歩、大丈夫だって。私が居るから」

男勝りな真音は、怖がる果歩を励ます。

真音がオカルト部に入部した理由は、単純にオカルト関係に興味があるからだという。

「ってかさ、卒業旅行どこ行く?」

あっけらかんとした性格の心寧は、今向かってる心霊スポットに目もくれず、卒業旅行の行き先について言う。

心寧がオカルト部に入部した理由は、帰宅部みたいだったからだという。

「卒業旅行は今関係ないだろ?」

興味本位で付いてきた佑樹は、女子しかいないオカルト部によく顔を出していた。

一応弓道部なのだが、あまり活動しなかったらしい。

「いいじゃん! 心スポ行く前に卒業旅行どこ行こうか決めようよ! 私は沖縄!」

「誰も聞いてないだろ」

ボケる心寧に対し、佑樹がツッコむ。

日常茶飯事の光景だ。

そんなオカルト部も今日で終わりか。

色々あったな……。

私は、今までの思い出を頭に浮かべながら夜道を運転していた。

事故らないといいけど……。





三十分弱。

"霊道トンネル"近くの村にようやく辿り着いた。

この村は昔、栄えていたが、突如猟奇的殺人鬼が村を襲い、大量の村人が虐殺された恐ろしい事件が起き、現在立ち入り禁止区域となっている。

「不気味だね」

「私……怖いよ……」

「だから大丈夫だって。今までのオカルト調査では何も起きなかったわけだし」

「行ってみようよ。もしかして誰か居るかもよ?」

「んな訳ないだろ。今日の本命は"霊道トンネル"なんだしな」

佑樹が言っても心寧は興味津々で村に行こうとする。

「心寧、ダメだって」

私は、心寧の手を引っ張る。

それでも心寧は、諦めようとしない。

「なんで行こうとしてんの?」

「だって面白そうじゃん!」

「お前なあ……」

恐怖という言葉を知らない心寧に対し、佑樹は頭を抱える。

「だったらさ、心寧一人で行けば?」

「ちょっと……真音ちゃん」

「なら、そうする」

真音の提案で私の手を振り解いた心寧は、立入禁止テープを破る。

「おい、心寧!」

「いい加減にしてよ!!」

真音と心寧の仲の悪さに加え、心寧の自由奔放さに腹が立つ。

「最後のオカルト部の活動でしょ? 最後ぐらいしっかりしてよ」

オカルト部の部長である私の一言で心寧は動きを止めた。

「分かったよ」

心寧はみんなが居る場所に戻る。

「真音もしっかりしてよ」

「凛……ごめん。つい心寧の自由さにかっとなった」

はあ……真音と心寧の二人は、犬猿の仲だ。

最後ぐらい仲直りしてほしい。

「ねえ……立ち入り禁止のテープそのままにしていいのかな?」

果歩は破ったままのテープを指差しながら言った。

「大丈夫じゃない? まあ、心寧がやった事だしね」

「あたし何か悪い事した?」

「あんま気にすんなよ。さあ、行こうぜ」

「みんなも自由だなあ」

辛い受験が終わった今、皆は肩の力が抜けたのかあまりにも自由だ。

まあ、私もだけどね。

「ほんとにいいのかな?」

何か怪しい雰囲気を放っているのか、果歩は何度もテープを見る。

「果歩は本当に心配性だな」

「だって……」

「ほら二人とも"霊道トンネル"に行くよ」

私の一言で果歩はテープを放っていく事に。





私達は遂に"霊道トンネル"に辿り着いた。

「ここが"霊道トンネル"……」

あまりの暗さにゴクッと喉を鳴らす。

「やっぱり……帰ろうよ……」

「せっかく来たんだし最後の思い出としてはなかなか良い心スポじゃない?」

「よーし、早速入ってみよー」

「お前には恐怖心というのはないのか」

「じゃあ……入るよ……」

先程まで騒がしかった車内は、私の一言で一気に静かになった。

私は、事故らないよう注意を払いながらトンネルに入る。

トンネル内は、異常な静けさと雫がポツリと滴り落ちる音だけが木霊していた。

「本命の"霊道トンネル"……怖すぎ……」

「わ、私は……目を瞑っておくね……」

「うっひょー! テンション上げてこー!」

「ここはそういう場所じゃないぞ」

「…………」

「ん? 凛どうした?」

各々喋っている中、私だけが黙っていた。

「な、なんか……足元が変なの……」

「足元?」

助手席に座っていた佑樹は、私の足元を確認する。

「何も無いぞ?」

「そう……良かった……」

「そういう冗談は無しって行く前に言ってたじゃないか」

「言ったけど……一瞬感じたの……」

「何だそれ。部長がしっかりしてないと部員達も困るだろ?」

確かに佑樹の言う通り私がしっかりしないとダメだよね。

「うん。分かった。最後の部長の仕事、全うするね」

「おう。任せたぜ」

部員達が危ない目に遭わないように私が守らなきゃ。

私は、グッとハンドルを強く握る。

そうしてかなりの時間が経った。

「ひーまー。何か起こってよー」

「心霊スポットは、そういうものだろ?」

「えー。どこ行っても何も起こらずせっかく最後の活動として最恐の心霊スポット来たのにー」

「駄々をこねない。何も起こらないのも活動の一貫」

すると……

キキー!

「「「うわっ!?」」」

「突然どうした?」

「タイヤが……パンクしたのかもしれない……」

「え?」

確認の為、私と佑樹と心寧が車から降りる。

「あーこれは完全にパンクだな」

「嘘……パンク……」

「これはいよいよ一つ目の怪奇現象起こるかも?」

「そ、それは絶対に起こらないわ! どうにかして運転するしか方法は無い」

「でもどうやって運転するんだよ? これじゃ運転出来ないぞ」

「うーん。あ、頑張って押すとか?」

「まさかの力づく……ってそれしか方法はねぇか」

「何か楽しそー」

私は、力が強い佑樹と真音の力で車を押す事を提案する。

「ふんっ」

「ん……」

二人とも体育系の部活に入部していた事もあり、二人の力なら押せるのではないかと思ったが、案の定微動だにしない。

「どれだけ力入れても動かねぇ……」

「やっぱり二人の力だけじゃ……無理」

「一ミリも動かなかったわね」

「俺は力があるが、真音も力あるんだな」

「私も一応部活が無い日にジム通ってるし力はある。女子だからって舐めるんじゃないよ」

「はいはい。見た目通りだな」

「ちょっとどこ見て言ってんの! 確かに私は女子っぽくはないけど……」

「落ち込まないでよ真音ちゃん。真音ちゃんもれっきとした女子だよ」

「胸が大きい凛に言われたらなんかムカつく」

「えー。理不尽」

にしても二人だけじゃダメかぁ。

「二人だけでは流石に無理だから凛も押してよ」

「私?」

「一人でも押すの手伝ってくれたら助かる」

「そっか。なら」

そう言って、私も車を押す。

すると、少しだけ車が動いた。

「お、動いたぞ」

「凛もしかして力強い感じ?」

「いやーバレたか」

私は、元々女子バスケット部に入部していたこともあり、多少力はある方だ。

「何で俺達二人に任せたんだよ」

「それは……私が強いとイメージが崩れると思って」

「なるほどね。まぁ凛は力はあると分かったしこれから力仕事は私達と協力してね」

「わ、分かったよ」

なんて言いながら時間は掛かるが、車は動くしこれなら安全だろう。

そう、安心しきっていると……

「「キャーー!!」」

車内に居た果歩と心寧が突如叫ぶ。

「二人ともどうしたの?」

私は二人に何が起こったのか車内を確認する。

見ると、果歩の足元に白い腕が伸び、果歩の足を掴んでいた。

「わ、私の……足に……」

「い、今すぐ車から降りて」

「無理だよ。手跡がくっきりと付くぐらい掴まれてる」

「そんな……」

あの時私の足元が変な感じしたのこれが原因か。

私の足を見ると、確かにうっすらと手跡が付いている。

くっ……今すぐ果歩を助けたいのに足が竦んで動けない。

「あたしがなんとかする」

私があたふたしていると、心寧が言い、果歩の足を掴んでいる腕を振り解こうとする。

しかし、霊なので、すり抜けてしまう。

「あたしが助けなきゃ……果歩が不安になる……」

「心寧ちゃん……」

必死に果歩を助けようと頑張る心寧。

それを見ているだけだなんて部長、失格だ。

「俺も助ける」

「私も」

真音と佑樹の二人も助けようとしたが、何故かドアが開かない。

「おい! 閉めんなよ!」

「閉めてないよ!」

「え……マジかよ……」

ガチャガチャと開けようとしたが、一向に開かない。

「果歩、しっかり身を保って!」

「う、うん……」

更に強みを増す白い腕。

「痛い……」

「振り解こうにもダメみたい。なら……果歩、痛いかも知らないけれど我慢して」

心寧は、果歩の足を腕から遠ざけようとする。

「痛いよ……」

「果歩ならイケる!」

果歩を鼓舞しつつ何とか強引に遠ざける。

すると……白い腕がもう一本伸びてきて、今度は片足を掴んできた。

「何この腕は……」

「うぅ……うぅ……」

泣くのを我慢する果歩と必死に両足を遠ざける心寧。

そして両腕は一瞬果歩の足を離し、束の間安堵する二人だが、再び足を掴み今度は闇に引きずり込もうとする。

「いや……いやーー!!」

「果歩ーー!!」

足を掴まれ痛がっていた果歩と彼女の足を遠ざけようとした心寧は、両腕により闇に引きずり込まれた。

二人の姿が見えなくなり、完全に車内から消えた事を目の当たりにした私達三人は、唖然とした。

「果歩……心寧……」

大事な親友を失った真音は、絶望し消沈していた。

「私が果歩を守るって言ったのに……まだ心寧と仲直りしていないのに……」

ブツブツと下を向きながら呟く真音。

私は、慰めるどころか只々その姿を見ている事しか出来なかった。

「クソ……何で今開くんだよ」

ずっとガチャガチャしていた佑樹は、突然開いた事に絶望する。

私が……部長らしいのをしていないからこんな事に……。

「私が……悪いんだ……」

「はぁ!? 何でそうなる」

「だ、だって……私が行動すればこの状況何とか打破出来たのかもしれないじゃん。それなのに私は行動出来なかった」

真音同様私も自分の不甲斐無さに絶望する。

それを見た佑樹は、頭を抱える。

すると……


トンネルの入口辺りから人影らしき者が歩いてくる事に気付く。

「すみません。助けて下さ──」

助けを得ようとしたが、その正体に気付いた佑樹は、青ざめる。

なんとその正体は……白い霊達の大群だった。

「ハハッまるで……一つ目の怪奇現象じゃないか」

本当に起こってしまった怪奇現象に戸惑う佑樹。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

という悲痛な叫び声がトンネル内に木霊する。

「これが、猟奇的殺人鬼に虐殺された村人達の霊達か……」

まだ小さい子どもの霊や若者、老人の霊達など様々居る。

中には、トンネル内で自殺した血塗れの猟奇的殺人鬼らしき霊も見受けられる。

どうやら心寧が破った立ち入り禁止のテープから大量に虐殺された村人達の霊が出てきて、元々トンネル内に居た霊と合わさったようだ。

「弔いたいところだが、今はそれどころじゃないんだ」

正気を取り戻した佑樹は、単独で車を押す。

「ハァ……流石に一人はキツイか」

びくともしない車を押すのを諦め、どうしようと悩む佑樹。

打つ手が無い状況に対し更に絶望し始め……周りが真っ白になる。

そうこうしている内に、佑樹はトンネル内から忽然と姿を消した。


「あれ……? 佑樹は? どこにいるの?」

虚無状態から脱した私は、すぐに佑樹が居なくなった事に気付く。

そして、トンネル内を歩く霊達の存在にも気付き、私は思う。

これって……まさか、五つ目の怪奇現象……。

きっと佑樹は霊達に手足を掴まれあっちの世界へと連れて行かれたのだろう。

果歩と心寧も同じく。

「ま、真音は……無事……だよね……?」

真音の方を見ると、絶望しきっている彼女が居る事に安心する。

「そう……だよね。もう……三人も居なくなったんだよね……」

そう言ったのも束の間、真音に血塗れの猟奇的殺人鬼らしき霊が近付いて……。

「真音、逃げて!!」

「え?」

ブチッ

真音の手足は裂かれ、ピクピクと体が痙攣する。

「ま、真音まで……」

先程まで生きていた部員が目の前で死亡した姿を見て更に絶望する。

「私……一人だ……」

その場で体育座りをして露骨に寂しさを感じる。

「みんな……最後の活動なのに……ごめん……やっぱり私のせいで……」

最後の活動として最恐の心霊スポット"霊道トンネル"を提案したのは実は部員である私なのだ。

だから全部私が悪いんだ……。

私も今からみんなの元に行くよ。

と、死を覚悟した瞬間。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

男の声が聞こえてきた。

あ、もしかしてこれって……。

二つ目の怪奇現象だと気付いた私は、このトンネルからは二度と出られないという恐怖を感じた。

外の光なんて到底見えない暗いトンネルで孤独のまま死ぬまで生きるのか。

はは……。早く……死にたいな……。

私の感情はとっくの前に失っていた。

耐えられなくなった私は、猟奇的殺人鬼と同様の手段で自殺した。






オカルト部最後の活動は、最悪の形で終わってしまった。

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