葬式
おじいちゃんが亡くなった。
心臓の病気で闘病生活を送っていたが、体が衰え始め、亡くなったという。
「優。突然のことで驚いたと思うけど、大丈夫?」
「大丈夫……に見える?」
「そうよね」
お母さんが、困惑したような表情をする。
「だって、小さい頃から一緒に遊んでいたおじいちゃんが、突然亡くなったんだよ……」
僕は、元気だったおじいちゃんの顔を思い出す。
「………」
お互い、何も喋らなかった。
このまま無言だと気まずいので、僕から切り出す事に。
「お父さんも来ればいいのに」
「お父さんは、外せない仕事があって来られないのよ……」
お母さんは、寂しそうな表情をして言った。
「おじいちゃんの葬式の方が優先だと思う」
「それは……仕方の無いことよ」
僕は、おじいちゃんの葬式に来ないお父さんに憤りを感じる。
絶対、おじいちゃんの葬式に来た方が良かったのに……。
葬式が始まった。
おじいちゃんの遺体を清めて棺に、おじいちゃんが好きなもの、一緒に遊んだおもちゃなどが納められた。
「おじいちゃん……この鞠大事にしてね」
僕は、棺に収められた大事な鞠を見つめる。
そして、次におじいちゃんのやつれた顔を見ていると、一瞬目が開いたように見えた。
「!!」
驚いた僕は、恐怖のあまり逃げるように去っていく。
「お母さん、おじいちゃんの目が開いた」
僕は、誰かに伝えようと真っ先にお母さんに伝えた。
だが、当然信じてもらえなかった。
「何言ってるの。ただの見間違いじゃない?」
そう……なのかな。
あの目は、確かに覚えている。
僕は何か、不穏な感じがした。
それから通夜式、告別式が執り行われ、やがて火葬場で骨上げを行う事になった。
僕の番が来て、早速おじいちゃんの遺骨を骨壷に納める。
すると……
「一義……、一義……」
という謎の声が聞こえてきた。
この声……おじいちゃん?
そして、一義は僕のお父さんの名前だ。
何で、こんな声が……。
「絶対に許さない」
憎悪に満ちたおじいちゃんの声が耳元で響く。
信じられない状況に困惑していると、遺骨が動いているように見えた。
「うわっ!」
慌てて僕は、遺骨を放り投げる。
それを見ていたお母さんは、
「優! 不謹慎な行動はしないこと!」
と、僕に対して怒る。
「だって……だって……」
恐怖の感情に押しつぶされそうになった僕はその場で座り込む。
火葬場に来ていた人達が騒ぎ出す。
「すみませんうちの息子が」
近くにいた人達に対し、お母さんは謝る。
「優! ちょっとこっち来て!」
お母さんは、僕を外に連れ出した。
「何であんな事したの?」
「だって……おじいちゃんの声が、一義……一義……ってお父さんの名前を呼んでたから」
僕は、今まで起きた事を全て伝えた。
それを黙って聞いていたお母さんは、
「そういう事ね」
と、何かを察したように言った。
「お母さん、何か分かるの?」
気になって僕は聞いた……けど
「優は知らなくてもいいのよ」
お母さんは、答えてくれない。
「もう……何がなんだか……怖いよ」
ガタガタ震える僕を見て、お母さんは溜息を吐いた。
「仕方ないわね。全部話すわ」
ゴクッ。
僕は唾を飲み込んだ。
「単刀直入に言うわ。お父さんはおじいちゃんにお金を借りたの。いわゆる、"借金"」
借金……。
「おじいちゃんから高額のお金を借りたお父さんは、全額パチンコにつぎ込んだ。バレないと思ったお父さんは、そのパチンコに負け続けて、更におじいちゃんから借金をした」
お父さん……。
そんな酷い事を……。
「どんどんパチンコに消えていくお金を返そうとお父さんは奮闘をした。でも、その前におじいちゃんは突然亡くなった」
「という事はおじいちゃん、全部知ってたって事?」
「絶対許さないって言ってたから確実に知ってたわね」
つまり、おじいちゃんはお金を返さないお父さんを恨んでいたという事になる。
「だから、お父さん葬式に来なかったの」
「でも、葬式に行っておじいちゃんにお金を返す事できたじゃん」
「多分、お金を返す事できなかったか、おじいちゃんの顔を見たくなかったか」
「そんな……」
「優がこんな怖い体験をしたから、そろそろ帰りましょう」
「……うん」
そう言ってお母さんは、お世話になった人達に挨拶をして、僕達は帰る事になった。
それから、お母さんにもおじいちゃんにもバレてしまったお父さんは、離婚して離れ離れになった。
今の僕は、お母さんと一緒に住んでいる。
お父さんの存在を忘れて、僕は充実した生活を過ごしている。
僕が体験した出来事で、人の恨みは死んでも晴れないという事を学んだ。
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