Spine-chilling story~背筋が凍る怪談話~
結木 夕日
「童謡」の恐怖
てるてる坊主
明日はとても大事な陸上部の試合がある。
その試合で勝てば全国に行ける。
ここまで練習を重ねてきたから自信はある。
あるのだが……問題はそこじゃない。
今は、雨が降っている。
天気予報では、今日ずっと雨のようだ。
明日は、絶対に晴れて欲しい。
「お願い……」
晴れることを願って、私はてるてる坊主を大量に作り部屋中に吊るした。
「これで晴れてくれるかな」
大量のてるてる坊主に囲まれながら私は就寝した。
『てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ』
『てるてる坊主』の童謡が聞こえてくる。
それと共に大量のてるてる坊主達が寝ている私を囲んでニタッと笑っている。
そして、止まらない『てるてる坊主』の童謡。
何……これ……。
手足を動かそうにもビクともしない。
金縛りだ。
誰か……助け……て……。
『そなたの首を チョンと切るぞ』
『てるてる坊主』の童謡が三番まで歌い終わると、てるてる坊主達が一斉に私の首目掛けて腕を伸ばしてくる。
殺される……!
身の危険を感じた私は、思わず目を瞑る。
「かの……ん……夏音っ!!」
「っ!?」
大量のてるてる坊主に襲われる夢にうなされていると、突如お母さんの呼び声が聞こえて私は飛び起きる。
ピピピッと目覚まし時計が鳴っていた。
「ん……」
時計を止めて私は伸びをしながら目覚めた。
嫌な夢を見たな……。
「今日大事な試合があるんでしょ? 遅刻したらダメでしょ!」
お母さんが1階のキッチンで大声を出していた。
「分かってるよ! 今すぐ用意するから!」
そう言いつつ、
さて、晴れてるかな
と、晴れていることを期待して、カーテンを開ける。
空にはどんよりとした暗雲が垂れ込めていて残念ながら大雨が降っていた。
「そんな……」
私は膝から崩れ落ちる。
「夏音には残念だけど今日は試合中止ね。でもまだチャンスがあると思うから頑張れ!」
お母さんが私を慰めても私にはお母さんの声は届かない。
折角、ここまで頑張ってきたのに試合が中止だなんて……。
てるてる坊主をたくさん吊るしたのに……。
「どうして……どうして……」
頭がぐちゃぐちゃだ。
そして私は一つの考えに思い立つ。
あ、これ
てるてる坊主が悪いんだ……。
てるてる坊主が雨にしたんだ。
だって、こんなにてるてる坊主を吊るしているのに雨だもん。
うん。きっとそう。
だったら……。
罰として、
てるてる坊主の首を全部切ってやる!
私は、悔しさと怒りと絶望のあまり次から次へとてるてる坊主の首を切り続ける。
「こんなにてるてる坊主作ったのになんで晴れてくれないの!! 全部、全部このてるてる坊主が悪い!!」
頭がぐちゃぐちゃなまま、無我夢中で切り続ける。
てるてる坊主の中には何故か血が流れているものもいた。
生きてるの……?
でも今の私にはそんな事考えずにただ一心不乱にハサミやカッターなどの刃物で切り続ける。
何分経ったのだろう。
私は、我に返る。
目の前の光景は、てるてる坊主の悲惨な姿が散乱していた。
胴体からは首が取れていて、首の根元には血が流れている。
「私は、一体何を……」
『てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ』
「何……これ」
突如、部屋中に響き渡る『てるてる坊主』の童謡。
不気味な声で歌うこの歌は、とても気分を悪くする。
「これって……」
夢で聞いた『てるてる坊主』の童謡だ。
これは現実なのか夢なのか分からない。
頭の中には靄がかかっていて、振り払おうとしても振り払えない。
ずっと『てるてる坊主』の童謡がこびりついているかのようだ。
「やめて……やめてよ……」
そう言っても、歌声は止まらない。
「私が悪かったから……。てるてる坊主のせいにした私が……」
私は、歌声を遮るように耳を塞ぐ。
けれど決して止まらない。
『そなたの首を チョンと切るぞ』
歌い終わると、てるてる坊主達が一斉に私に振り向き、ニタッと笑う。
「いやーーーーーー!!!」
あまりの恐怖に耐えられなくなった私は、
部屋を飛び出し、階段を下り、1階のトイレに隠れる。
「ハァ……ハァ……何なのよ」
『てるてる坊主 てる坊主』
「っ!?」
トイレの中で耳を塞いでいた筈なのに、その童謡はまた聞こえ始めた。
そして、その童謡は私の部屋から出て、階段を下る。
「近付いてくる……!」
先程まで遠く聞こえた童謡が、どんどんと近くなっていく。
ハァ……ハァ……ハァ……。
息遣いが荒くなっていき、心臓がバクバクと暴走する。
「かのーん! 早く朝ご飯食べなさい!」
お母さんっ!?
「い、今トイレに居るからちょっと待って」
「早くしなさいよ」
これでお母さんも来ないだろう。
そう、安堵した瞬間。
『てるてる坊主』の童謡は、私が居るトイレの前まで近付き、ピタッと止まった。
もしかして気付かれた……?
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
更に心臓がバクバクと暴走する。
すると……
「キャーーーーーー!!!」
お母さんの叫び声が突如、聞こえた。
「な、何……」
本当は、お母さんの元に行きたいけど、足が竦んで動けない。
「お母さん……?」
何分経ったのだろう。
私の中の恐怖が消え去った。
でも、まだ怖いので恐る恐るトイレのドアを開け、周りを確認してお母さんが居るリビングへと向かう。
リビングに入ると、電球がチカチカと明暗していた。
「お母さん……どこ……」
出来るだけ声を振り絞る。
しかし、返事が来ない。
そうして電球が完全に付かなくなり暗闇に包まれる中、それでも私はお母さんを探す。
すると……
ゴン……!
「痛っ」
何か当たったのかな。
気になった私は、その正体を見る。
その正体は……
「キャーーーーーー!!!」
血だらけで染まったお母さんの首が転がっていた。
その近くに首から上がないお母さんの体があった。
その光景に驚愕していると、後ろに気配を感じる。
でも、私は振り向きたくない。
そう思っていると
『そなたの首を チョンと切るぞ』
その後の記憶はあまり覚えていない。
ただ、リビングが血だらけに染まっていくのを微かに覚えている。
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