第13話 メッセンジャー

 黒いローブの人物の入った建物の中は大きな広間が広がっていた。

 特に物も置いておらず、装飾もない。

 しかし一点だけ大きな特徴があった。


 それは壁に描かれた大きな壁画。

 石を削り作られたその壁画は全長10mはある巨大な物で、そこには4人の人物と文字が彫られていた。


 ルイシャはその4人の人物のほとんどを知らなかったが、一人だけ見覚えのある人物がいた。


「勇者オーガ……!」


 4人の中で一際大きく描かれているその人物。

 漆黒の鎧に大きな体躯。背中にさしたとても人が扱えるサイズではない大剣。

 そのどれもがこの人物が伝説の勇者であると示していた。


「左様、ここに描かれているのは三代目勇者オーガ様その人です」


 気づけば黒ローブの人物はルイシャ達のすぐ横に来ており壁画を見ていた。

 一瞬驚いたルイシャだが頑張って平静を取り戻し質問する。


「いったいここは……それに貴方は誰なんですか?」


「はい、一つずつ答えさせていただきます。まず私の正体をお見せします」


 そう言って目深に被っていたローブのフードをパサりと外す。

 その下に隠したあったその素顔を見たルイシャとシャロは「「な!?」」と驚き距離を取る。それほどまでにその人物の顔は衝撃的な物だった。


「そ、その顔はいったい……?」


「ふふ、驚かれるのも無理はありません。こんな腐った顔・・・・を見せられましたら

 そうもなるでしょう」


 そう言って「ふふふ」と笑うその人物。

 その顔は醜く崩れており、皮膚は黒ずみただれていた。

 その見た目を一言で表すならば「ゾンビ」だ。しかし普通のゾンビとは違いその人物は理性が残っており普通に話すことができた。

 そのゾンビらしからぬハッキリとした喋り方で黒ローブの人物は自己紹介を始める。


「私の名前は……あれ? なんでしたっけ? これだからゾンビの体は嫌になりますわ。こう見えても300年前はそこそこ頭は良かったのですよ」


 そう言ってクスクスと笑うゾンビの女性。

 その立ち振る舞いからは気品が感じられる。生前はお嬢様だったのだろう。


 聞いたことも見たこともない元気なゾンビに戸惑いながらもルイシャとシャロも彼女に自己紹介する。

 そしてどんな経緯でこのダンジョンに来たのかも彼女に話した。


 彼女は落ち着いた様子でうんうんとルイシャ達の話を聞いた。


「なるほどなるほど、お二人は学生なのですね。ふふ、どうやら外の世界は平和そうで喜ばしい限りです」


 彼女は上品に笑うがその顔はゾンビ、なんともシュールな光景だ。

 自分たちのことを話したルイシャは今度はこっちの番だとばかりに彼女に質問する。


「ではそろそろ教えていただきますか? あなたとここの事を」


「はい。ここはオーガ様の情報を後世に伝える情報保存施設になります」


「情報……保存施設?」


「はい。決して外には漏らしてはいけない情報。それを遠い未来に残すためこの施設は作られました。そして私もまたその一部。ここに保存された情報を正しく伝えるために長い間ここでこの情報を伝えるにふさわしい方をお待ちしていました」


 それを聞いたルイシャはあることに気づき背筋を冷やす。

 もし自分の推測が当たっているなら目の前の人物がゾンビであることに説明がつく。


「まさか、あなたは……自らその姿に……!?」


「はい、そうです。生身の肉体ではとても生きながらえる事はできません。なので私は自らこの身体をゾンビにしたのです」

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