第2話

「最初に言っておくけど、手前の得意についての話だから聞き流してもらって構わないわ。


 錯覚は視覚に訴えかけるか心情に訴えかけるかの大きく分ければ二通りある。ご主人様はすでに体験してるわよ。ねぇねを見つけたダンジョンでね。


 ねぇねを視認できなかったのが視覚の錯覚。


 あのトウマが造ったダンジョンを正しく呼称するならねぇねの家だったの。最深部はねぇねの寝室。ダンジョンの最深部に見せかけた大きな寝具の上に寝ていただけなの。そんなはずはない。あんなところにそんなものが造れるはずがない。だから、美しい女性が寝ているはずがない。そう思ってる人間ほど誰もねぇねには気づかず最深部にすら届かないはずだった。実際に過去千年近くの間やってきた人を手前が錯覚に陥れてトウマの罠に嵌めてきたのだから。でも、ある泥棒はそれを破りねぇねの封印まで解いてしまった。


 まさか、魔物がいるダンジョンにて戦闘を行わない前提でやってくる人間がいるとは思っていなかったわ。ダミィの宝の地図と宝箱をあえて造ったというのに宝のみを目的にやってくる人物。視覚に訴える錯覚の弱点はご主人様のようなタイプに二度目以降に違和感を相手に与えてしまうこと。いままでは一度目で全員死んでいるのだけど。


 ねぇねの封印が心情に訴えかける錯覚。人は思考する限り願望を抱いてる。その願望を叶えたように錯覚させるの。手前は人の心の内を巧みに晒させる。そこに漬け込むと人を容易く操れる。ねぇねに自分自身が封印されたと錯覚させるように。こちらの弱点は願望が変化してしまうこと。ねぇねの場合は願望が二つあって変化したのではないけど、本人が願いを望まなくなってしまったら錯覚できなくなってしまう。


 目覚めさせたのをご主人様が心配するのは筋違いよ。所詮錯覚は錯覚なの。嘘とホントの交じり合い。いつかは解かれてしまう。ねぇねが眠っている間に絶望して自分で目覚めてしまったら世界はなくなって、終が残るほうが心配じゃない? ねぇねに出会ったときを覚えている? さぞかし尖っていたのでしょうね。千年近く殺意に触れていなかったというのに、たった数人の殺意のエネルギィでトウマの造ったダンジョンを破壊し街を一つ滅ぼした。


 セイホがねぇねが起きるのを待っていた死者の街だったけど、そうではなかったらどれくらいの人が死んだでしょう。まあ、ねぇねは人が人を殺す感情を実現してしまっているだけなのだから、人災のように自業自得だと甘受せざるを得ないのが成り行きなのね。


 さあ、ご覧なさいご主人様。砦の門扉が開いていくでしょう? 驚くなかれ兵士が開けているだけでなんの不思議もないわ。手前の声を聞いて姿を見て狂信しているだけよ。心情を解いてあげたから教祖として扱われているだけ、普段の私生活に支障は起きないわ。手前がいるとき以外はね。彼らは何と呼ばれているのか忘れてしまったけど、ご主人様は好きに呼んであげて。あぁあ、かひにはなれないのかしら? 手前は彼らの下にいるはずだったのに。そうね、四人の一番下で絶えないとね。ご主人様もそう思うでしょ? あれ? ご主人様? 無視、無視なの? うぅあはぁ! これよこれ! 喋られせるだけ喋られて無視するぅ、手前に容赦ない仕打ちィ!」

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