第33話

 ベティは、観劇の翌日からマフラーを編み始めた。


「ベティ様、紅茶が冷めますよ」

「あら、もうそんなに時間が経ったのですね」

 ベティは自分の部屋で、ロージーの入れた紅茶を飲んだ。


「美味しいですわ。紅茶の入れ方が上手になりましたわね、ロージー」

「ありがとうございます」

 ベティは一息つくと、また編み物に集中し始めた。


「それでは私は家の仕事をします。用事がありましたら、呼んで下さい」

「わかりましたわ、ロージー」

 ベティは目だけロージーに向けてそう言うと、また手元の毛糸に目を向けた。


「なかなか素敵な模様になってきましたわ。クライド様は喜んで下さるかしら?」

 ベティは半分ほど編み終わった青いマフラーを胸に当ててみた。

「良いわ。温かいし柔らかいし」


 ベティがマフラーを編み終えたのは、その日の夜遅くだった。

「出来ましたわ。明日はロージーの分を編みましょう」

 ベティは出来上がったばかりのクライドの瞳の色の青いマフラーを机の上に置いて眠りについた。


 翌日、ベティは早起きをしてロージーのマフラーを編み始めた。

「ベティ様、クライド様とお揃いのマフラーをお作りですか?」

「いいえ、ロージー。今編んでいるのは……出来上がってからのお楽しみですわ」

「……そうですか」

 ロージーは興味のないような返事をして、ベティに礼をして部屋を出て行った。


「ロージーは使って下さるかしら?」

 ベティは午前中にロージーの茶色いマフラーを編むのを中断して、昼食を取った。

「ロージー、明日はクライド様にマフラーを届けに行きたいのですが、この手紙をクライド様に届けて頂けますか?」

「はい、ベティ様」


 手紙には簡単に、明日お会いできますか? と書かれていた。

 ロージーは受け取った手紙を持って、クライドの屋敷に駆けていこうとした。

「ロージー、走っては危ないですわ。ゆっくりでかまいませんのよ」

「はい、ベティ様」


 ロージーは注意深く、クライドの屋敷に向かって歩き始めた。

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