第65話 決意

 


「お帰りなさいませ」


 ギルドに帰ってきた俺は、自衛隊に連れられ狭い通路を歩く。


 大広間にやってくると、着替えをして装備一式を預けた。換金は……また今度でいいか。


 なんだか大広間にいる冒険者からチラチラ見られてるし「おい、あれって……」といった感じで指をさされて噂されてる気がするけど、気のせいだろうと無視をした。


 用を済ませてゲートをくぐり抜けると、いきなり美少女に抱き付かれた。


「士郎さん……おかえり。無事でよかった」


「ありがとう。灯里も無事でよかったよ」


 胸の位置にある灯里の頭に手を置いていると、楓さんと島田さんが声をかけてくる。


「お二人とも、ゲートの前でイチャつくのは目立ちますから待合室に向かいましょう」


「とか言って、五十嵐さんも本当は抱き付きたいんじゃないの?」


「ドつきますよ」


「二人も無事そうでよかった。俺も話したいことがいっぱいあるんだ」


 それから俺達は、ギルドにあるレストランに訪れた。


『戦士の憩い』にしなかったのは、みんなと落ちついた場所で話がしたかったからだ。あそこは賑やかだけど、他の冒険者に絡まれたりして落ちついて話せないし。


 とりあえず飲み物を頼んだ俺達は、罠転移にかかった後の話になり、先に三人の話を聞くことにした。


 灯里がめちゃくちゃ慌てたことや、島田さんが俺の代わりにアタッカーになってモンスターと戦ったこととか。


 なんとか自動ドアを見つけて帰還できたようだけど、三人もかなり大変だったようだ。


 そりゃそうだよな。ただでさえ四人なのに、俺が抜けてしまったら三人になってしまうのだから。三人には迷惑をかけてしまった。


 今度は俺の番で、モンスターにタコ殴りにされ殺されそうになったり、日本最強の神木刹那に助けて貰ったり、御門さんという冒険者の家に招待されたり、帰る寸前に刹那に戦いを挑まれたことを話した。


 刹那の話をしたら驚くと思っていたが、三人はどうやら俺がモンスターに襲われてるところからダンジョンライブで見ていて、ほとんど把握していたらしい。


 なんか仲間から見られるのって、結構恥ずかしいんだなぁと思ってしまった。


「でも凄いですよ。あのタイミングで神木刹那に会うなんて。やっぱり士郎さんは何かモってますね」


「御門さんに薬草を届ける最中だったらしいんだけどね。でも、そのお蔭で死なずに済んだよ。ダンジョンライブで見てたとおり、かなり無口な感じだったけど。やっぱりオーラあったよ」


「いいなぁ、僕も刹那と会ってみたいよ。そしたら絶対サイン書いてもらうし。でも無口なわりには、許斐君とは結構喋ってたよね。最後の試合? みたいな時もそうだったけど」


 島田さんの指摘に同意する。


 そうなんだよなぁ。そこは俺もイメージと違ったんだよな。孤高でクールなイメージがあったから、あんなに喋るとは思わなかった。それも戦ってる時は凄く楽しそうだったし。


 いきなり戦えって言われたこともそうだけど、結構戦闘狂のところもあるかもしれない。


「いきなり士郎さんに斬りかかった時はすっごく腹が立った。なにしてんだこの野郎って思ったもん」


 眉間に皺を寄せ、怒りが籠ってる声音で告げる灯里。

 彼女がこんなに怒りを表に出すのは珍しいな。なんか、刹那と会ったら問答無用で矢を撃ちそうで怖いんだが。


「動画で見てましたが、士郎さんの戦いっぷりは凄まじかったです。あの刹那にも引けを取らないぐらい神がかっていたといいますか……」


「いやー、あれは刹那が手加減してくれたからで自分の力じゃないし」


「何を言ってるんだよ! 素人目でもあの時の君は本当に凄かったよ! 刹那が言ってたけど、『オレと同じ力を持っている』って一体どんな力なんだい? もしよかったら教えてくれないかな」


「んー、そう言われてもあんまり実感ないんだよね。あるとすればユニークスキルの【勇ある者】かもしれないけど、何かのスキルが発動した感じはなかったし」


「ああ、例のオーガと戦った後に発現したスキルの事ですね」


 楓さんの意見にうんと頷く。


 俺もちょっと気にはなってた。刹那が何度も「オレと同じ力を出せ」というけど、最後までなんのことか分からなかったからだ。


 USの【勇ある者】かとも思ったけど、刹那はミノタウロスと戦っていた時とも言ってたし、そうするとその時は【勇ある者】はなかったわけだし、何を指しているのか分からなかった。


 しくったな……ちゃんと聞いておけばよかったかもしれない。


「なんだか士郎さんに置いていかれちゃった気がするなぁ」


 寂しそうに呟く灯里に、楓さんと島田さんがどの口が言うんだと言わんばかりに食いつく。


「士郎さんの無事が確認できた後の灯里さんも凄かったですからね。普段の倍以上はモンスターを屠ってましたし」


「えっ、そうなの?」


「そうだよ! 薄くだけど身体にオーラを纏ってたし! あれもやっぱりUSの力なのかな? いいなぁ、僕もUSが欲しいよ」


 羨ましそうに言う島田さん。隻眼のオーガと戦ってUSが発現したのは俺だけではなく、灯里も【想う者】というUSが取得されていたからな。


 俺の身体が橙色の輝いていたのと同じように、灯里の身体も淡い桃色に輝いていたらしい。後で俺もYouTubeで確認しよう。


「まあ、なにはともあれ全員無事で良かったですね」


「そうだね。今回で身に染みたのは、やっぱり仲間って大切なんだってことだよ」


「だねぇ。僕ももうアタッカーはこりごりだよ」


「私も……士郎さんがいないだけで凄く取り乱しちゃったし……」


 一人になった途端、自分が無力になってしまう。


 モンスターとの戦闘もそうだけど、一番クるのは精神面だ。一人だと心細く、単純に寂しいのだ。やっぱり仲間の存在って大きいんだなと改めて思った。


(そう思うと、刹那って凄いよなぁ)


 刹那はソロ冒険者だ。

 たった一人でダンジョンを冒険している。

 余計なお世話かもしれないけど、寂しいと感じることはないのだろうか。


 ふと、そう思ってしまったのだった。



 ◇◆◇



 色々話した俺たちは、そのまま解散することになった。


 楓さんと島田さんと別れ、灯里と一緒に帰宅する。

 レストランでご飯は済ませたし、後は風呂に入って寝るだけ。

 すると、灯里が突然こんなことを言ってきた。


「士郎さん……今日は一緒に寝てもいい?」


「どうしたんだ?」


「なんか、ちょっと恐くて……」


 泣きそうな声音で言ってくる灯里にノーと言えず、俺は「しょうがないなあ」と言って許可をする。


 実は俺も、もう少し灯里といたいと思ってたんだよな。


 二人でベットに入り、拳一個分空けて横になる。すぐ目の前に、灯里の可愛い顔があった。


 目が合うと、口を開くことなくじっと見つめ合う。

 沈黙を破ったのは灯里だった。


「今日ね、初めて士郎さんがいなくて恐かった。自分が自分じゃないみたいだった」


「俺もだよ。灯里がいないことは初めてだったから、凄く不安だった」


「分かったんだ。私、士郎さんがいないとダメみたい。何もできない弱い子供になっちゃうよ」


「灯里……」


「もう、あんなドジは踏まない。士郎さんを危険な目に合わせない。絶対に私が守ってみせるって決めたんだ」


「はは、なんか女の子に守られるってちょっとカッコ悪いな」


「いいの。私がそうしたいんだから。ねえ士郎さん、手……握ってもいい?」


 そう頼まれたので、俺はいいよと言って手を差し出す。俺の手を、灯里の小さい手が包み込んだ。


「士郎さんの手、あったかいね」


「逆に灯里の手は冷たくて気持ちいいな」


「私、この手を離さないから」


 そう言うと、灯里の瞼は徐々に落ちて寝息を立てる。


 手を繋いで安心したのか、気持ちよさそうに寝ていた。だけど手はしっかりと握られている。


「……」


 俺は眠れなかった。

 灯里と一緒に寝ていることもそうだけど、目を閉じても瞼の裏に思い浮かべてしまうのだ。


 刹那と戦った時のことを。


(なんなんだろうな……あの力って……)


 刹那は言った。“オレと同じ力を持っているはずだ”と。


 それが何かは分からない。でも多分、戦っている最中にふとなる全能感のことを言っているんだと思う。


 あの力の正体は分からない。だけどあの力をもっと磨けば、俺はもっと強くなれる気がした。


(刹那に追いつきたい)


 俺の中に、そんな想いが芽生える。


 今日、俺と別れた後。


 ダンジョン五十層をソロで攻略した刹那のダンジョンライブを見て、俺は決意したのだった。

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