エピローグ2

 


『さあ会場にいらっしゃる皆様、もう間もなくです!GW最終日、東京ダンジョンタワーによるギルド最大のイベント。日本最高峰パーティーのアルバトロスによる、ダンジョン五十階層チャレンジが、もう間もなく開始されます!』


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


『さらにさらに、ゲストには今大人気沸騰中のダンジョンアイドル、D・Aの皆さんにお越し頂いて貰っています。D・Aの皆さん、今日はよろしくお願いします!』


『『よろしくお願いしまーす!』』


「カノンちゃーん!!大好きだーーー!!」


「シオンちゃん超絶可愛いよおおおお!!」


「ミオンちゃんこっち向いてーーーー!!」


『いやーやっぱりD・Aの人気っぷりは凄いですねぇ。って野郎共、いつまでも叫ぶな!!静かにしろやごらぁ!!』



 GW最終日の日曜日。

 ギルド付近にあるライブ会場は、一万人の一般客で埋め尽くされていた。

 席は満席で、立ち見をしている人も多くいる。彼等の目的は、GW一大イベントのアルバトロスによる五十階層攻略だった。


 今現在、日本にある東京ダンジョンでの最高到達階層は四十九階層。

 勿論冒険者パーティーの日本最強と云われているアルバトロスも到達しているが、実は他のパーティーも四組ほど到達している。

 だけど、彼等は何か月もずっとそこで止まっていた。


 何故かというと、五十階層の階層主が強くてどのパーティーも倒せなかったからだ。

 五十階層の階層主は遺跡ステージのボスで、今までの階層主とは異なり二体いる。どちらも名前は「アヌビス」で、神話に出てくるアヌビスと見た目はほぼ同じだ。しかも二体とも全長五メートル以上と巨大である。


 アヌビスが厄介なのは、一体が魔術でデバフスキルを使いまくってきて、もう一体が攻撃力に特化している事だ。さらにダメージを与えても回復までさせられてしまうので、攻略困難な仕様となっている。


 アルバトロスも何度か挑んでいて良い所まではいっているのだが、押し切れず敗れてしまっていた。

 彼等は対策する為の装備やアイテムも揃え、準備を万端にした。さあ行こうかという所でスポンサーから話が来て、GWイベント最大の目玉として今日攻略する事になったのだ。


 彼等のように強い冒険者は、スポンサー企業がついていたりする。莫大な支援を頂いているそうだけど、その代わりスポンサーのご意向は余り無碍には出来ないようだ。


 因みにD・Aは、アイドル会社が最初から募集して結成された。

 多くの募集からオーディションを勝ち残り、見事三枚の切符を手に入れたのがカノンとミオンとシオンの三人である。彼女達は可愛くて歌えて踊れるだけではなく、冒険者でもある。レベルも高く、攻略階層も二十層以上いっていた。


 ライブ会場ステージの上には、巨大なモニターが設置されてある。

 そこに映っていのは、四十九階層を探索しているアルバトロスのメンバーだった。


『おおっと!どうやらアルバトロスが五十層への階段を見つけたようだぞ。時間も14時前で時間通り、流石一流の冒険者は分かってますね!!』


 ステージに立っている実況の女性がそう言うと、会場がどっと沸いた。


『さあ皆様お待たせしました!これよりアルバトロスによる五十層主攻略戦が始まります!皆で応援して盛り上げようぜええええ!!』


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


 司会の女性が叫ぶと、会場中から絶叫が上がる。

 俺は隣に座っている灯里に問いかけた。


「楽しみだな、灯里」


「うん!」


「いよいよですね」


「見てるこっちがドキドキしてきたよ」


 隣にいる楓さんと、その奥にいる島田さんも興奮した様子でモニターを見ていた。

 そしてついに、アルバトロスが階段を上がり五十階層へ足を踏み入れたのだった。



 ◇◆◇



 灯里の母親が現れた後、少し灯里に時間をあげてから俺達は室内にある自動ドアを潜り抜けてギルドに帰ってきた。


 因みに、ボス部屋に入ってボスを倒すと、十一層に繋がる階段と帰還用の自動ドアが出現するようになっている。なので一度入ってしまうと部屋からは出られないのだ。階層主を倒すか、死んで現世に戻るかの二択になってしまうので、階層主に挑むのは万全な準備が必要だ。

 まあ東京ダンジョンはデスゲームではないから、結構気兼ねなく挑戦する冒険者は多いけど。


 ギルドに帰ってきた俺達は、ギルドの職員と自衛隊に出迎えられる。

 未だに目を覚まさない灯里の母親を担架で連れて行かれ、灯里もそれについて行った。ダンジョン被害者は健康状態などをチェックするため、すぐに病院で入院する事になるらしい。


 俺と楓さんと島田さんの三人は、ギルド職員に連れられ待合室で話を聞かされた。

 何故かというと、本来の十層ではない場所に飛ばされ、かつモンスターのオーガが喋った事が前代未聞だったからだ。


 全世界にあるダンジョンタワー。三年経った今でも、モンスターが人語を喋った事なんて一度もない。貴重なサンプルという事で、未知の十層部屋の事やオーガの情報を事細かに説明する羽目になったのだ。

 余りにも質問が多くて、まるで警察に取り調べをされている気分だった。


 長い間拘束されて、もう本当に喋ることはありません勘弁して下さいみたいな感じの事を伝えると、俺達はやっとギルド職員から解放されたのだった。


「いやー恐かった。もっと優しく聞いてくれればいいのにね」


「全世界でも初情報で、希少度が高いですから仕方なくも思います」


「あれは一体何だったんだろうな……」


「ダンジョンは未知の世界ですから。でもこれで、さらにダンジョンブームが加速されるかもしれませんね」


「そう思うと、僕達って凄いよね。喋るモンスターと初めて出会った冒険者だし」


「確かに、そう言われてみればそうだな」


「まあ何にせよ、灯里さんのお母さんが救い出されて良かったです」


 楓さんと島田さんと少しの間会話した後、俺達は解散する事になった。

 明日のダンジョン攻略は休みで、一緒にアルバトロスの攻略を見ようという事になっている。まあ、灯里は母親に付きっきりで来れないかもしれないけど。


「ただいま……」


 家に帰ると、久しぶりに一人だった。

 灯里が同居してから一人になった事がなかったから、部屋が凄く広く寂しいと感じてしまう。おかしいよな……今までずっと一人で暮らしていたのに、一か月ぐらいしか住んでいない灯里がいないだけで寂しいと思うなんて。


 でもそれだけ、俺の中で星野灯里という存在が大きくなっているのかもしれない。


 何もやる気が起きずボーっとしていると、九時頃に灯里が帰ってきた。

 ピンポーンという音が鳴って玄関に向かいドアを開けると、灯里が立っていた。


「おかえり。お母さんは?」


 そう尋ねると、灯里は悲しそうに首を横に振る。


「まだ目がさめない。でも、お医者さんが言うにはよくある事なんだって。次の日に目が覚める人もいれば、一週間後や一か月後になるかもしれない。でも命に別状はないし、目覚めなかった人はいないらしいから、一先ず安心した」


「そっか、良かったな」


「士郎さん……ありがとう」


 そう言って、灯里は俺に抱き付いてくる。


「良かった……お母さんが帰ってきれくれて、良かった」


 泣いてる灯里に胸を貸し、俺は彼女の頭を優しく撫でたのだった。


 翌日の朝から、俺と灯里は母親の見舞いに行った。

 母親は灯里に似て(逆か?)美人で、灯里がそのまま歳を重ねたような女性だった。とりあえず眠ったままの母親に挨拶をして、午前中に病院を後にする。


 それは午後からギルドでイベントを見るためだった。

 無理しなくていい、母親の側にいていいんだぞと伝えたけど、灯里は「楓さんと島田さんと約束したから」と言ってギルドに行く事になった。

 ギルドで合流すると、二人は灯里の事をめちゃくちゃ心配していて、灯里は嬉しそうにありがとうとお礼を言っていた。


 屋台で飲み物やつまみを買って、俺達はライブ会場の席に向かったのだった。



 ◇◆◇




『凄い!凄いぞアルバトロス!ついに一体目のアヌビスを倒しました!』


 モニターの画面では、アルバトロスのメンバーが階層主と死闘を繰り広げていた。

 マンガやアニメのようなド派手な攻撃も凄いけど、五人の連携プレーが神がかっていて、見ているだけで胸がドキドキする。


 そしてついに、その時がやって来た。


『やりました!やりましたアルバトロス!!難攻不落のアヌビスを撃破し、念願の五十階層を踏破しました!!!』


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


 アヌビスを倒した瞬間、会場の盛り上がりが最高潮に達する。

 それに呼応するように、俺の感情も今までで一番昂っていた。


 凄い……本当に凄かった。

 いつか俺も、あの人達のようになれるだろうか。

 そう思って拳を固く握り締めていると、その手を小さい手が優しく覆う。


「灯里?」


「やろう士郎さん。私達ならできる」


 今度は逆の手を覆われる。


「楓さん?」


「私達も負けていられませんね」


 灯里と楓さんも、凄く生き生きとした顔だった。

 気持ちは分かる。俺も、今すぐにでもダンジョンに入って冒険したいぐらいだから。

 熱気と興奮に充てられた俺は、何故か二人の手を握るという暴挙に出ると、笑みを浮かべてこう言った。


「俺達も、あの人達のように強くなろう」

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