エピローグ
――ヒュンっと、矢が目の前を通り、背後から俺に襲い掛かろうしていたゴブリンの額に突き刺さる。
ナイスフォローと心の中で灯里に礼を告げると、死にきれていないゴブリンにトドメを刺す。綺麗なポリゴンとなって消滅する小鬼から目を逸らし、飛びかかってきたホーンラビットの角を、新調した鋼鉄のバックラーで受け流した。
つい数週間前にこのモンスターに殺されトラウマ気味になったが、今はもう平気だ。ホーンラビットなんかよりも、もっと恐いモンスターと戦ったしな。
隙だらけの背中に火炎を叩き込む。藻掻き苦しむ角兎の頭を叩っ斬った。次のモンスターはと周囲を見回すと、楓さんが二体のロックボアに体当たりされていた。
「やっぱりロックボアの突進はイイですね!でもまだまだです!貴方達ならもっとやれますよ!ほら頑張って!」
……相変わらず暴走してるなぁ。何度も見てるけど、五十嵐さんのどМっぷりは未だに慣れない。
呆れてる俺とは違って、灯里は淡々とロックボアを殺していた。灯里の弓の腕も最初とは見違えるように上達したよな。最初から上手かったんだけど、動作というかメンタルというか、そのあたりがもうプロなのだ。いつもは明るく輝いてる瞳が、まさに狩人のそれである。
「パワースラッシュ!」
最後に残ったロックボアを、【剣術3】で覚えるアーツで屠る。
ドロップした魔石をラッキーと思いながら拾っていると、灯里と楓さんがやってくる。
「お疲れ様です。お二人共、調子が良いみたいですね」
「まあね!なんてったって武器と防具も一新したから絶好調だよ!身体も凄い軽いし、弓も手に馴染むもん!」
「許斐さんの方はどうですか?」
「そうだな~俺も全然違うよ。いつもより身体が軽いし、バックラーもホーンラビットにド突かれたけど平気だし」
バックラーを見せながら言うと、楓さんは「それならよかったです」と破顔した。彼女が笑顔を見せるのは珍しいので、つい驚いてしまった。
◇◆◇
ゴブリンキングとの死闘に勝利し、俺の家で三人で祝勝会をした。
五十嵐さんはすぐに酔っぱらってしまい、お酒に興味を持った灯里が飲んでしまい酔っぱらい、そして俺も飲まされ酔っ払い、気付いたら朝だった。
三人とも服が脱ぎ散らかっていて、灯里と五十嵐さんが俺の腕を抱き締めていて、やっちまったのか!?と死ぬほど焦ってしまった。
俺は昨夜の記憶がなかったんだけど、どうやら二人はちゃんと覚えていたらしい。彼女達の話によると、俺は手を出していないみたいだ。めちゃくちゃほっとしたけど、灯里も五十嵐さんも顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
恐れながら問いかけたけど、二人は何でもないと言って教えてくれなかった。
俺は一体二人に何をしたんだ……?
どうやら二人は二日酔いが激しくて、朝はダウンしていた。彼女達を休ませて、割りと平気な俺がとっ散らかっているお菓子や缶ビールのゴミを片付ける。回復した五十嵐さんと午後からギルドに集合する約束をすると、彼女は一度帰った。
その後まだ怠そうにしていた灯里もシャワーを浴びると回復し、ゆっくり休んでからギルドへ向かう。
ギルドで五十嵐さんと合流した俺達は、装具を新調することにした。
ゴブリンキングからドロップした王魔石を換金して百五十万円も手に入れたので、ここらでちゃんとした武器や防具を買おうという事になったのだ。
俺はウルフの一式装備。動きやすく頑丈な防具だ。見た目も割りと格好いいし、ウルフの黒毛がふさふさして気持ち良い。灯里と五十嵐さんにめちゃくちゃ触られる。効果は斬撃系と敏捷性が少しだけ上昇するようになっている。
それと壊れてしまったバックラーの代わりに、鋼鉄のバックラーを買った。剣も鋼鉄の剣なので、鋼鉄シリーズで揃えようと思ったからだ。
灯里はスカイバードの一式装備。白を基調としていて、俺よりも動きやすそうな感じ。パンツじゃなくてスカートだし、登山服より肌の露出度が一気に上がったけど、これでもちゃんと守られているらしい。やっぱりダンジョン産の装具って不思議だよな。効果は敏捷性と命中率が上がっている。
それと弓も代え、スカイバードの弓矢を買った。手の感触がかなりお気に入りらしい。攻撃力と命中率も上がるそうだ。
楓さんは自分では何も買わなかった。今の防具がかなり優秀で、今のところ買わなくてもいいみたいだ。凄く申し訳ないのでお願いだから何か買ってくれと頼んだら、遠慮気味にハイポーションとアイテムを数個買っていた。
一気に買ったお蔭で百五十万円のほとんどを使ってしまったけど、俺と灯里も後悔はしていない。俺達の目的はダンジョンに囚われた灯里の両親と俺の妹の夕菜をなるべく早く救い出すこと。その目的に近づくには、お金を出し惜しむ必要もない。
まあ、こんなに買えたのも王魔石を手に入れたからなんだけど。
別にいいよね、金は天下の回り物って言うし。
装具を一新した俺は、昨日よりも冒険者らしい格好でダンジョン四層に入ったのだ。
◇◆◇
「おっ、今のでレベルが上がったみたいだな。ちょっとステータス確認してもいい?」
「私も上がってました!」
「大丈夫ですよ。私が見張っておきますので」
五十嵐さんに一言断ってから、俺はあの言葉を口にした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男
レベル:13
職業:魔法剣士
SP:40
HP:270/300 MP:180/240
攻撃力:290
耐久力:250
敏 捷:245
知 力:230
精神力:285
幸 運:230
スキル:【体力増加1】【物理耐性2】【炎魔術3】【剣術3】【回避1】【気配探知1】【収納】
称号【キングススレイヤー】
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使用可能なSP 40
取得可能スキル 消費SP
【筋力増加1】 10
【体力増加2】 20
【気配探知2】 20
【回避2】 20
【魔法剣1】 10
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ダンジョンに来た時に、職業を魔法剣士にしたのと、念願の収納スキルを習得した。
魔法剣士にすると、MPがかなり増えた。50くらい+になったんじゃないかな。
それと新しく【魔法剣1】も取得出来るようになった。これは剣に魔術を付与して出せる技である。俺の場合【炎魔術】を取得しているので、炎属性の斬撃を繰り出せるのだ。
なんとなく取ってないけど、この先必要だと感じたら取得するだろう。
灯里も俺と同じレベル13まで上がっていたみたいだ。残念ながら五十嵐さんは上がっていない。まあ彼女はゴブリンキングを倒してもレベル1しか上がっていなくて、28だもんな。こればっかりはしょうがない。
(あれからもう一か月か……)
寒い夜に、見知らぬ女の子が家の前でうずくまっていた。
その女の子が俺と同じダンジョン被害者で、妹の夕菜と友達で、一緒に冒険者になろうと言ってくるとは思わかった。
家族を救うために冒険者になったことは事実だ。
だけど……不謹慎だけど、俺は今のこの生活がとても充実しているように感じていた。
上司に仕事を押し付けられ、同僚からは馬鹿にされ、動画を見ることが趣味の代わり映えのない毎日。その毎日に、幻想世界でモンスターと殺し合う生活が加わった。それも、可愛い女子高生の同居つきで。
一か月前の俺に今の状況を言っても、絶対信じられないだろう。
「今日はこのくらいにして、この後三人でご飯食べに行こうよ」
「いいですね!これだけ運動したら、絶対ビールも美味しいはずです!」
「あはは……昨日みたいにはならないでくださいよ」
前に酔いつぶれた時は凄く大変だったんだから。そう付け足すと、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「昨日は誠に申し訳ございませんでした。今日は抑えて飲みますので心配ご無用です」
「ほらほら、喋ってないで早く帰ろうよ!」
先に行ってしまった灯里が、手を上げて呼んでくる。俺と五十嵐さんは顔を見合わせて、彼女のもとへ歩いた。
まるでファンタジーのような世界で、剣や魔法でモンスターを倒す。
そんな漫画やゲームのようなことをしているなんて思わなかったけど、そんな非日常な生活も悪くはないと。
灯里と五十嵐さんの笑顔を眺めながら、俺はそう思ったのだった。
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