【連載第一弾#4】First Contact

 拘束されたまま連れて来られた場所、ここはどこだろう。


 途中から城の前まで連れて来られ、そこからは目隠しをされた。

 夕暮れ時の街の喧騒の中、幾分か歩かされ、今やっと視界が開けたところだ。


 そこは石造りの広大な建物の空間。外の様子はわからない。

 ただ一つわかる事は、両脇を抱えられどこかに連れていかれている事。それだけだ。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


ー ガシャン、ガチャガチャ、カチッ ー


『静かにしてろよ。明日また話を聞く』

「勘弁してもらえませんかね。帰りたいんですけど。」

『お前が何者かもわからないまま、野放しに出来るわけがないだろう。我慢しな。』


 言ってる事はごもっともだが、言われてるこっちはたまったもんじゃない。

 拘束されたまま通された個室で、しばらく話を聞かれた。


何者なのか。

どこから来たのか。

なぜここに来たのか。


 大雑把にではあるが、色々と聞かれた。

 その質問攻めの会話から、いくつかわかった事がある。


 この星には東京は存在しないし、日本もない。


 そして、ここは地球じゃなかった。


 あの扉を開いた時の高揚感はなくなってしまった。

 しかし、人がいるこの星に辿り着けた事は幸運なのだろう。


「この星は空気がうまいな...地球よりも。」

『何か言ったか?』

「いや、何でもないです。今夜はここ?」

『あぁ、牢屋で申し訳ないが、素性がわからないうちは我慢してくれ。』


 質問攻めが終わった後、そのまま牢屋に連れて来られてしまった。

 途中、宇宙服から簡素な服に着替えさせられたが、洗い麻のような素材でチクチク痛い。

 洗ってはいるが、何度使い回されたものなのだろう。


 小さく開いた穴のような窓から見える空は、すっかり暗くなってしまった。

 看守を残し、衛兵たちも行ってしまい、静寂に包まれている。


「はぁ...眠いな。」


 扉をくぐってから、街まで少し歩いて来て、質問に答えただけなのに妙に疲れている。


 宇宙を漂流し続けていたが、船内で少し歩くくらいで体力が落ちていたのかもしれない。


 それに人と話す機会は全くなかった。

 聴こえるのは船内でBGMの歌声くらい。

 久々の会話に、張り切って話してしまっていたのかもしれない。


 少し、寝ようと思う。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


ー カチッ、ガチャガチャ、ガシャ、キィィィ ー


 牢の扉が開く音で目が覚めた。


『起きろ。そろそろ時間だ。起きれるか。』

「...ぁあ、、朝ですか...」


 昨日ずっと担当してくれていた衛兵だ。

 言葉こそ慣れ慣れしいが、いいやつっぽい。


『朝だぞ。一応、上の者が来るから、しっかり話してくれ。』

「あー、尋問?」

『尋問とは人聞きが悪いな。事情聴取だ。不審者に話を聞くのは当たり前だろ。』

「ですよね。わかりました。ところで、お腹が空いてまして...」

『あぁ、それも今から行く部屋に持って行くように言っておこう。この後に総長が来るから、ついて行ってくれ。じゃあな。』


 昨日の衛兵は、今日は担当ではないのか。

 さっと立ち去ってしまった。


ー ぐぅぅぅぅーーー... ー


 それにしてもお腹が空いた。

 恐らく夕方くらいにここに来たので、それから半日何も食べていない。


『おい、”地球人”。』


 特に何も持ち物がないので、身だしなみだけを整えている間に、少し歳のいった衛兵が話しかけて来た。


「はい、”地球人”ですよ。」

『衛兵総長のサトーだ。出てくれ。話を聞きたい。』

「昨日のとこですか?」

『いや、違う。来ればわかる。』


 おや?再び質問攻めが始まるのだと思っていた。

 無機質な牢を出て、衛兵の総長に続く。


『あとは私だけでいい。』


 衛兵総長の部下たちが立ち去って行った。

 来た通路とは反対方向にある扉の前で立ち止まった。


『さぁ、帰っていい。』

「えっ、帰っていいんですか...?」

『お前がニビア人でないのはわかるが、他のどの国の者でもない事はわかった。』

「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて。」


 ニビアという国の他のどんな国が存在するかはわからないが、この中世ヨーロッパ風の街に留まっている理由はなさそうだ。


『おい、これが必要だろう。』

「ありがとうございます。」


 取り上げられていた宇宙服を受け取った。

 なぜか少しきれいになっている。


「じゃあ、また。」


 衛兵総長のサトーは、何も言わずに扉を閉めた。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


 城下町の入り口まで歩く道中、昨日からの事を考えていた。


 突然ドッキングしてきた謎の宇宙船から、この見知らぬ星にどうやって飛んだのだろう。

 船内の扉がこの星につながる何かがあったはず。

 物凄い距離を空間移動したことは間違いない。


「活気のある街だな...。みんな表情が生き生きしてる。」


 海が近く港も栄えているようだ。

 城下町で国の中でも中枢都市なのだろう。

 街の中心部は市場になっていて、新鮮な海産物や野菜なんかが並んでいた。


 それでも、この街に入るまでにすれ違う人はそれほどいなかった。

 小規模な国なのだろう。


 だけど、民衆を見て羨ましく思えた。


「みんないい顔してるな...。」


 ここに残ろうか。

 そんな事が脳裏をよぎった。


 でもなぁ、


ー お父さん、起きて。そろそろ時間だよ。 ー


 あぁ、家族に会いたい。


 妻に、娘に会いたい。


 まだ諦めるわけにはいかない。

 地球に帰るんだ。


 そんな決意を固めながら、宇宙船へと帰るための扉を開けようとした...はずだった。


「嘘だろ...」


 扉は消えてしまっていた。


「これじゃあ、帰れないじゃないか...」

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