第47話教会病院別室にて(1)

元は看護師の春麗と奈穂美と病室に戻った。

マルコ神父とシスター・アンジェラは、吉村教授と大学職員の三井と、まずは今日見た範囲のことを、動画を見せながら説明をした。


吉村教授は、その動画の途中から、顔をしかめている。

「こんな不良サーファーに・・・」

「私の大切な学生が」


大学職員の三井も、厳しい顔。

「私もサーフィンは好きなほうですが、こういう輩がいると」

「倒れた人を助けるどころか、蹴飛ばす?」

「その上、財布の中身を抜いて、財布を海に捨てるなんて」

「しかも大笑いで、腹が立って来ました」


シスター・アンジェラは、考え込む。

「そもそも、元君が強い酒を飲んで、由比ガ浜に倒れなければ」

「何故、鎌倉に来たのかも、よくわかりません」

「家の鍵をゴミ箱に捨てて・・・よほど酒に酔ってしまったのか」

「自暴自棄になった原因は何か」


大学職員の三井が、元の「母親」との連絡とその反応を話すと、マルコ神父が苦々しい顔。

「まさに無関心」

「どうなろうと、構わないのか」

「親は名目だけか」

「元君も寂しかっただろう」


吉村教授は、シスター・アンジェラに質問。

「ところで、シスター・アンジェラは元君を赤子の頃から知っているということで」

「となりますと、具体的には?」


シスター・アンジェラは、マルコ神父と顔を見合わせる。


少し間があって、マルコ神父が答えた。

「これについては、秘密に願いたい」

「元君とは、私たちが高輪の教会にいた時からの関係」

マルコ神父は、ここで声を低くした。

「実は、その高輪の教会の児童施設にいた子供でした」

「そして、養子として、千歳烏山の家に」


今度は、吉村教授と大学職員の三井が、顔を見合わせる。

吉村教授は、また怒り顔。

「養子として引き取っておきながら、無関心とは」

大学職員の三井も、眉をひそめる。

「怪我をさせられ現金も盗られたのに、警察沙汰になっても、日本に帰る気はないとか」

「いくら実の子でないといっても」


そんな話をしていると、部屋のドアにノック音。

シスター・アンジェラがドアを開けると、病院職員が立っている。

「元君のお見舞い、ということで、三人お見えになりました」

「その三人の中で、音楽雑誌社の杉本という女性の方が、マルコ神父とシスター・アンジェラとお話したことがあると申しております」


シスター・アンジェラがマルコ神父を見ると、マルコ神父は、ここでも即断。

「まずは、その三人をこの部屋に」

そのマルコ神父の言葉で、雑誌社の杉本、探偵の中村、クラブのマスターが部屋に入った、


全員が席に着いたので、まずは自己紹介を兼ねて、話が始まった。


マルコ神父は、自分の胸の前で手を組む。

「元君を赤子の頃から知っているマルコ神父と申します」

「かつては高輪の教会で元君と一緒で」

「この教会の責任者を任されております」

「それにしても、元君を心配されて、これほど多くの方が」

「これも神のご配慮かと思います」


シスター・アンジェラも自己紹介。

「私もマルコ神父と同じで、元君を赤子の頃から」

「まるで実の子供のように可愛がっておりました」

「その元君が、こんなことになり、憂慮していると」

「マルコ神父がおっしゃられた通り、皆様がお見えで」

「やはり、元君は神に見放されてはいない、それどころか、今後を期待されていると確信いたしております」

懸命に話すシスター・アンジェラの目には、涙がにじんでいる。

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