第42話保護された教会にて(2)

元を診た大塚医師は、所見を追加した。

「少し痩せ過ぎと思います」

「身体全体に力がない」

「どのような食生活なのか」

「あまり食べていないような、食事のバランスが取れていない」

「アルコール反応が強いことは、シスターからのお話で理解しますが」

「二十歳を少し過ぎた程度ではあるけれど、食生活の改善も必要です」

「幸い、煙草は吸わないようですね、肺はきれいでした」


マルコ神父は、深く頷く。

「その改善を含めて、しばらく預かるとしよう」

シスター・アンジェラも同感なので頷き、新たな提案。

「春麗に看護をさせましょう」

「春麗なら、元君と合うような気がします」

マルコ神父

「ああ、それがいい」

「春麗なら、料理も上手だ」

「看護の腕も丁寧で確かだ」

「真面目で明るい、性格の強さもある」

「期待を裏切らない子だ、元君を任せられる」



対応策がまとまり、シスター・アンジェラは元の大学に在籍する知人の女性教授に連絡を取る。

「吉村さん?シスター・アンジェラです」

「実は、貴方の大学の田中元君を保護しておりまして」

「はい、私は、赤子の頃から知っております」

「元君は被害者になりますが、由比ガ浜で犯人に暴行を受けて現金を奪われ、おそらく学生証も捨てられて」


シスター・アンジェラから「吉村」と言われた女性教授の反応も速かった。

「え?あの、元君が?」

「私、受け持っております、優秀な学生で」

「この前も、キャンパスで、ストーカー被害になりそうな女子学生を救って」

「わかりました、すぐに」

「はい、事務の職員も連れて行きます」


シスター・アンジェラと吉村教授の連絡の間に、春麗が元の病室に入って来た。


マルコ神父は春麗に頭を下げた。

「苦しみが強い子だ」

「癒すには時間がかかるかもしれない」


シスター・アンジェラは春麗の手を握る。

「もっと神に愛されてもいい子です」

「でも、厳しい試練で、今は弱り切っています」


春麗は元の寝顔をしばらく見て、ハッと気がついた様子。

「この子、横浜で見かけました」

「駅でピアノを弾いていて」

「全て聖歌を・・・」

「すごく人が集まって、涙を流す人まで・・・それも、ほとんどの人が」

「私も感動して泣きました」

「教会でも、あれほど感動したことはないのに」

「間違いありません、この子です」

「それなのに、どうしてこんなことに?」


春麗の目の光が強くなった。

春麗から、マルコ神父とシスター・アンジェラに頭を下げた。

「これも、神のお導きと思います」

「この春麗に、元君をお任せください」

「神に祈り、元君を癒したいと思います」



その言葉の時だった。

元の目が開いた。

「どこだ・・・ここ・・・」


マルコ神父とシスター・アンジェラが、元の顔を見ると、元はまず驚き、泣き出した。

「逢いたかった、死ぬ前に一度」

その後は、泣いてしまって、言葉にならない。

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