第23話元の家で    再び深沢講師の声

探偵中村は、再び、元をじっと見た。

「元君、頭がフラフラしていないか?」

「寝起きだけでは、ないような気がする」


元は、頭に手を当てた。

「酔って転んで、どこかにぶつけたかもしれない」

「でも、元々馬鹿だから、関係ないです」


雑誌社の杉本が、立ち上がって元の額に手を添えた。

「少し傷?かさぶた?」

「これは・・・こぶになっている」

「塗り薬はある?」


元は首を横に振る。

「そんな、しゃれた物はありません」

「馬鹿ですから、寝ればいつか、治ります」


杉本は、ムッとした顔。

「あのね、自分のことを、馬鹿って言わないの」

「薬箱はどこ?」


元は、答えられない。


中村が立ち上がった。

「買って来る」

「杉本さん、少し頼むよ」


元が「それは困ります」と言うけれど、中村からは反論。

「気にするな、俺にとっても元君は大事な芸術家だ」

「それから、マスターから、この前の出演料も預かっている」

「それから出すぞ」


元は何も答えられず、中村は一旦、姿を消した。


さて、中村が薬箱を買うために出かけている間、杉本は元に話しかける。

「今は吉祥寺のクラブで?」

「ストリートでハーモニカを吹いていたら、マスターに誘われたのが、最初」

杉本

「ストリートは儲かったの?」

「100円とかの人もいる、でも酔っ払っている人は札でくれて・・・」

「数えたことはない、そのまま財布に入れた」

杉本

「何を吹いたの?」

「ジャズになるの?」

「いろいろ、ジャズが多い、ボサノバとか、バッハとかもできる」

「年寄りに受けるのは、童謡」

杉本は、やさしい顔。

「いつか聞きたいな」

「気が向いたらでいいよ」


元が顔を上げ、何かを言おうとしていると、チャイムが鳴った。

そしてインタフォンから、中年の女性の声。

「元君!いるんでしょ?」

「深沢です」

「開けて!」


途端に元は嫌そうな顔。

「出ません、顔も見たくない、声も聞きたくない」

杉本は、声を低くした。

「あのコンクールのこと?」


元は、辛そうな顔。

「それもある」

「だから、ずっと話をしなかった」

「だけど・・・」


元は、言いづらそうで、考え込んでいる。

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