第17話元はマスターに救われていた 

マスターは、続けた。

「お上にとって、ストリートの奴らなんて、虫けら同然さ」

「ストリートピアノだって、気に入らねえと思うよ」

「公共の秩序を乱すとかさ」


ミサキは理解できない様子。

「だって、役所がピアノを置く場合もあるでしょ?それでも?」


マスターは頷く。

「ああ、弾く人と、好んで聴く人はいいさ」

「でもな、興味がない人には、音楽なんて騒音でしかない」

「役所に文句を言うべきと思うが、勘違いして警察に取り締まれとか、そんな文句を言う奴らもいるらしい」

「その対応がポリ公には面倒なのさ」


ユミは話を戻した。

「それでさ、酷い目にあった元君は、マスターが行ってくれて、誤認がわかった」

「元君に、そのポリ公は謝ったの?」

「治療代を出すとかさ」


マスターは、苦々しい顔。

「なかなか、謝らねえよ」

「最初は、おい!その小僧を連れていけ、それだけだ」

「だから、俺も怒った」

「そこの署長を知っていたし、録画をもらってあったから」

「それを言ったら、ようやくさ」

「悪かった、気を付けて帰れ・・・だとさ」


ユリ

「それでマスターは、どうしたの?」


マスターは、水割りを一口。

「そんな扱いなら我慢できねえから、署長を呼び出した」

「昔のダチだから」

「で、録画を見せた、馬鹿なポリ公の前で」

「ダチの署長はポケットマネーで治療費を10万かな、くれたよ」

「口止め料かもしれんが」



ミサキがため息をついた。

「酷い話だねえ」

「無実の罪でボコられて、怪我をさせられ」

「マスターが行くまで、犯人扱い」

「元君もマスターには感謝していると思うよ」


マスターは首を横に振る。

「いや、俺も、元君の音楽が好きだから」

「元君目当てで来る客もあるからさ」

「お前たちばかりでなくてさ」

「けっこう、スカウトも聴きに来ている」


ユリ

「でも、元君は、嫌がるんでしょ?」


マスターは頷く。

「どれだけ褒められても、お願いされても、絶対に話に乗らない」

「お断りします、それしか言わねえ」


エミは涙を流している。

「元君の気持ちだけど、もったいないよ」

「あたしたちが、口出すことじゃ、ないかもだけどさ」

「ほんと、どうしたら元君を普通にできるのかな」



マスターは腕を組んだ。

「そうだなあ、何か・・・」

「簡単にはいかないか」

「そうなった大元を・・・」

「難しいけど・・・」


マスターは、思い立ったように、アドレス帳をめくっている。

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