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「沙耶はね、秘書なのよ、ファイブスターの」


弥生が私の話題を振ってくれた。マコに夢中の男は放っておいて、あとの三人は私に注目した。


「ファイブスターの社長秘書ですか! やっぱり格が違うなあ」

「そんなことはないですよぅ」


少々身体をくねらせ、可愛く言ってみる。自分でも鳥肌が立ったけど、意外とウケた。

時に女は、自分を捨ててでも手に入れたい物がある。今の私は男だ。


「沙耶は、大学の時から綺麗でね。ミスキャンパスに選ばれているの。社長秘書はなるべくしてなったと言うことろね」


弥生は、私のことを一生懸命に売り込んでくれてる。ワンナイトラブでもいい、誰か私を抱いてちょうだい、賞味期限が近付いているから。


「やめてよぅ」


手入れを怠らない爪を見せるように、手をひらひらとさせた。


「マジでキレイだよな?」


一人の男が周りを巻き込んで賛同させる。三人いればかなり個性が別れるもので、真っ先に話をした男は確か、営業職だったはず。口ぶりが営業そのものだ。すっと人の懐に入り、押し付けがましくない口ぶりと、話しかけやすい雰囲気、これは次男と見た。

一番右端にいる男は、銀縁のメガネをかけているが、インテリそのもの。開発畑にいるのが丸わかり。理屈っぽい話し方に、人の揚げ足を取る感じがある。

それに、


「水越さん、身長高いっすね」


言ったな。一番言われたくないことを言われてしまった。そして次にはいつもの決まり文句。


「バスケかバレーやってたんすか?」


ほら来た、このセリフ。背が高いからって、バスケとバレーをやっていると決めつけないで欲しい。ふん、針も満足に持てない手芸部だったのよ。残念でした。

この時点でこの男は私から外される。女心を知り尽くしていれば、コンプレックスは身長だなとピンとくるはずだ。機械ばっかり見てるから血の通った女の、繊細な心が分からなくなるのだ。デリカシーがないのはいただけない。

でもまだあと二人いる。美味しい料理を取り分けながら、せっせと秘書で培われた気遣いを発揮する。

盛り上がりを見せていた合コンだったけれど、開発畑のインテリ男が、ことあるごとに屁理屈を言い、私達の言うことを真っ向から論破し始め、空気が悪くなってしまった。別れ際にも笑顔で対応する私達に、営業男はひたすら謝った。


「なんか絡んじゃって悪かったね」


営業畑の男は身長が足りなかったけど、人柄は一番良かった。少し付き合う程度なら合格点だったかも。なんて後から思ったけど、アドレスを交換しないまま別れたのは勿体なかったかな?

なんの収穫もないまま後味悪く終わってしまい、男が出来ない一日が終わってしまった。限られた時間しかない若くて新鮮な時間。なんともったいないことか。


「お腹空いた……お茶漬け食べよう」


少しでも可愛く見せようと、小食の振りをして料理をあまり食べなかった私は、マンションに帰るとお腹が空いてしまっていた。


「スペイン料理店だったのに……」


ピンチョス、アヒージョ、定番のパエリアと私の大好きな料理ばかり。それを思い出しながらお茶漬けの支度をする。寝る前の食事は美容と健康に悪いけれど、食べずにはいられない。


「明日は摂生しよう」


何も作らないキッチンはとてもキレイ。茶わんを出して、パックのご飯を温める。お茶漬けのりを振りかけて、沸かしたお湯をかければとても美味しいお茶漬けが出来上がる。ずるずると音をたててご飯を流し込む。


「おいしい」


一人寂しくテレビを観ながらかきこむお茶漬けは、私をいっそう虚しくさせる。やっぱり社長と比較してしまうのが原因だ。


「もう、だから彼氏が出来ないんだってば!」


本当に私は、社長以外の人と恋愛が出来るのだろうか。




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