しゃぶしゃぶ牛丼を出せ!出さないなら店を爆破する!
「俺には居場所がない!しゃぶしゃぶ牛丼を出せ!」
男は、カウンターの前で大きな声で叫んだ。何があって、この店にたどり着いたかは分からないが、春には相応しくない厚着で、さらに、ぐっしょりと濡れていた。男の言う『しゃぶしゃぶ牛丼』とは、夏季限定メニューだ。
「しゃ、しゃぶ、しゃぶしゃぶ牛丼は、夏のメニューでして、今はご用意できません」
店員である私は、勇気を振り絞って事実を伝える。
「夏のメニューだったら、店の冷蔵庫に在庫とかあるだろ!作れ!俺は、生娘が漬け込んだような、しゃぶ、しゃぶしゃぶ牛丼のあのつけダレごまダレが好きなんだ!作れ!俺には居場所がないんだ!独身男性だ!」
パニクっている私にも、男が支離滅裂なことを言っているのが分かる。運悪く店内に居合わせて他のお客様達は、「やべー」とか言ったり、Twitterに報告したり、手早く会計を済ませて、店から出ていく。嗚呼、なんだって、私がシフトの時に、こんな珍客がやってくるのか?
「はやく、しゃぶを出せ!出せないなら、この店は爆破する!」
目が血走った様は、薬物中毒者を連想させる。実際に、目の前の男がそうなのかは分からない。ただ、濡れた上着の裏にあったのは、ダイナマイトじゃあなくて、トイレットペーパーの芯であったと思う。
「しゃぶを出せ!しゃぶしゃぶを出せ!爆破するぞ!!!」
『人を爆弾魔に変えてしまうほど魅力的な夏季限定メニュー!しゃぶしゃぶ牛丼は来週~♪』
男が叫んだ後に、呑気な店内CMが流れた。
「是非、ご賞味くださーい!」
バイト達が声を揃える。店内CMが流れた後は、発声しないといけない。男は、発狂し、トイレットペーパーの芯にライターで火をつけた。芯は、少し焦げた。くさい。
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